世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2200
世界経済評論IMPACT No.2200

21世紀版「ミンスキー・サイクル」に直面する?:金融のニューノーマル・バブル

平田 潤

(桜美林大学大学院 教授)

2021.06.21

10年周期で繰り返す(?)米国金融危機

 米国金融市場は,規制緩和が進行した80年代以降,大きな混乱/危機をしばしば(敢えて言えば,ほぼ10年毎に)引き起している。80年代には,まず①金融自由化の流れの中で,ハイリスク投融資に傾斜し,不良債権が激増して,多くの中小金融機関が経営危機・破綻に陥り(「S&L(貯蓄金融機関)危機」,次には②大型の企業買収案件/商業不動産への投融資ブームとその崩壊「LBO(レバレッジ・バイアウト)危機」が生じた。90年代に入ると,アジア通貨危機(97~98年)を契機として,市場におけるヘッジファンド等のプレゼンスが格段に上昇した中で,③98年に,巨大ヘッジファンドがロシア国債に関するプライシング予測に失敗して破綻危機に陥った(LTCM危機)。そして90年代末から21世紀初頭では,④米国IT革命で誕生/興隆したIT企業群の,急速なブーム化と失速を背景に,株式市場で発生した「IT(ドットコム)バブル」とその崩壊,といった危機が発生している。

「ミンスキー・サイクル」による指摘

 H・ミンスキー(1919~96)は,第二次大戦後に米国が生み出した金融危機/混乱の原因を分析することで,金融市場/金融行動が,「ヘッジ金融段階」→「投機的金融段階」→「ポンティ(ねずみ講的)金融段階」へ,という段階を経て,不安定さを増しつつ,危機に陥っていく,という「危機の循環」を指摘している(「金融の不安定化サイクル」=邦訳『金融不安定性の経済学』1989年)。同書のなかで,H・ミンスキーは,米国の金融市場・金融システム・金融プレーヤー(金融機関・投資家)に,以下に見るa→b→cに向かう「循環性」(ミンスキー・サイクル)が存在することを指摘した。

 即ち,

  • a.金融システムが頑健性を維持している段階(資金調達では,キャッシュフローの保守的推定が使用され,安全比率も高い。景気拡大の初期)
  • b.投資家や金融機関がリスクテイクを拡大させ,利益を拡大させるために,レバレッジを押し上げ,調達・運用のミスマッチが常態化する段階,景気拡大の中期
  • c.(利払いキャッシュフローでは支払いがカバーできず)新たな出資・借り入れによる資金を利払い/配当/返済に充当し,資金を繰り回す「ポンティ(ねずみ講的)金融」,が優位を占めるに至る段階,という循環をたどる

というもの。

 cの段階になると金融資産から生じるリターンの改善が見込めずに,最終的には破綻するケースが殆どといえる。そしてこれは,予想キャッシュフローが恒常的に不足しても,資産の価値(担保価値)が上昇することを前提に,借り換えや負債の増大を持続させて,利払いを続けていくという,「サブプライム・ローン」の実態も,含まれるといえよう。

「サブプライム危機(リーマンショック)の特色

 米国サブプライム(ローン)証券化市場の混乱に始り,「リーマンショック」(2008年)に至った金融危機は,大恐慌(1929年)以来といわれる程の規模となり,世界経済に甚大な被害を与えた。米国住宅市場で生じた持ち家ブームと長期の価格上昇トレンドに便乗して,乱発された信用度の低い借り手を対象とする,サブプライムローンを裏付け資産とした「証券化債券(ABS)のバブル」が,2006年前後から崩壊し始め,ついにリーマンショックが発生した。この危機はABSという「証券化」,つまり間接金融(ローン)の直接金融(債券)化,或いは新たな金融仲介スタイル(「ハイブリッド型」)を舞台とするもので,以下の特色が指摘される。

  • ①通常見られる(投・融資過剰がもたらした)「投資バブル」の側面に加え,金融革新により,様々な証券化や,各種デリバティブ手法が複雑に組み合わされる過程で,イノベーションの濫用/悪用ともいえる「仕組み」バブルが,これまでになく膨張を続けており,
  • ②98年LTCM事件(前述)で注目された透明性の低い「ファンド」及び「SPC」(特別目的会社)など「モジュール型」媒体が多用され,その破綻が危機の引き金になった。
  • ③債務者に返済資力が乏しく,返済は担保不動産の価格上昇によるローン借り換えに依存し,キャッシュフローが自転車操業的なサブプライムローンとは,正に上述の危機の循環=ミンスキー・サイクルにおける21世紀版「ポンティ金融」段階に他ならなかった。

「ハイブリッド型」金融の危機サイクル(仮説)

 ここでこれまでの事例からの経験則によって,21世紀「ハイブリッド型」金融についての危機サイクルを(ミンスキー・サイクルに倣って)仮説提示致したい。

  • A=活性化ステージ:金融商品・取引の可能性を高めるイノベーションが盛んに行われ,新たな金融スキーム・モデルが創出される。伝統的な金融機関(直接・間接)の位置付けは,プロの大口資金提供者・機関投資家という役割に後退し,金融革新は,各種ファンドや様々なモジュール型媒体が活躍する。
  • B=バブルステージ:Aに触発されて,金融の世界で多くのフォロワーが増加すると共に,競争が激化し,Aで先発組の先行利益が縮小するため,レバレッジへのインセンティブは高まる。リスク・オンのトレンドのなかでは,よりハイリスク案件にも投資が及ぶことになり,投資家の増大と共に,ブーム→バブルが生じる。一方で様々な「理論上では可能なテクニカル・ヘッジ」「リスク回避」手法が使用されるが,様々なデリバティブを駆使し,メカニズム自体が見えにくい内容が多い。ここで「投資バブル」に加えて,「信認バブル」或いは「情報の非対称性の大幅な拡大」が生じやすい。
  • C=クライシス(危機)ステージ:当事者・関係者では利益極大化が至上命令となり,通常の金融取引で求められるプルーデンスがリセットされてしまい,モラルハザードが横行し,強欲メカニズムが威力を発揮する。また上記「A段階」で追求された金融革新の理念・目的は歪められ,仕組みバブルが横行する。

 そして問題ある(サブプライム金融機で見られたような,金融商品の製造責任が問われても仕方ない)欠陥金融商品や,欠陥ディール(リスク飛ばし,各種モジュール型媒体が多用されてブラックボックス化)の比率が徐々に高まり,金融規律が全般的に崩れ始める。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2200.html)

関連記事

平田 潤

国際経済

最新のコラム