世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1982
世界経済評論IMPACT No.1982

米国を分断するトランプ大統領と共和党右派

滝井光夫

(桜美林大学 名誉教授)

2020.12.21

来年1月6日の両院合同会議とは何か

 12月14日の選挙人団による投票,つまり11月3日の有権者による一般投票ではなく,選挙人による正式な大統領選挙は,大きな波乱もなくバイデン勝利で終わった。獲得した選挙人はバイデン306人,トランプ232人。これは11月3日の一般投票の結果と変わらない。前回2016年の大統領選挙では7人の選挙人が候補者以外の者に投票したが,今回はこうした不誠実選挙人は現れなかった(注1)。これでバイデンの勝利は不動のものとなったが,もう一つ最後の手続きが残されている。それが,来年1月6日(水)に開催される上下両院合同会議である。この合同会議で12月14日の投票結果が正式に集計され,上院議長(ペンス副大統領)がその結果を発表する。

 集計結果の発表であれば,1月6日の上院議長による発表は12月14日の投票結果と同じではないかと言われそうだが,重要な違いがある。1月6日の両院合同会議では,州の選挙人投票の結果に対して議員が異議を申し立てることができる点である。このため,異議が認められれば,場合によってはバイデンの得票数が変わり,トランプ勝利となる可能性も皆無ではなくなることもあり得る。この点が最も微妙で重要な点である。では,両院合同会議はどのように行われるのか。12月13日および14日付ニューヨーク・タイムズ電子版(注2)によると,議事は次のように進められる。

 11月3日の選挙で選ばれた新議員は1月3日に宣誓就任するため,1月6日の両院合同会議には新議員が出席し,上院議長であるペンス副大統領が議長を務める。ペンス議長はアルファベット順に州名を呼びあげ,下院議員2名と上院議員2名から成る4人の集計係(teller)が19世紀から使われているマホガニー製の2つの箱から各州の投票結果を取り出し,議長に提出し,議長の確認後,集計係が各州の投票結果を集計する。上院議長は270以上の選挙人を獲得した候補者を当選者として発表し,合同会議は終わる。

 このとき,州の投票結果に議員が異議を唱える場合,最低上院議員1名および下院議員1名の署名を得て文書を議長に提出する。この異議は各院別々に審議されるため,合同会議は一旦休会となる。各院の審議では発言は1議員1回,1回5分以内,審議は最大2時間に限定され,異議の採否を票決する。その後,合同会議を再開し,各院の審議結果が報告される。異議を認め,当該州の選挙人による投票を無効にするには各院で過半数の賛成が必要である。

 合同会議における手続きは,1887年選挙人算定法(Electoral Count Act of 1887)によって行われるが,異議が出されるのは珍しいことではない。下院民主党は2001年にブッシュ対ゴアおよび2017年にトランプ対ヒラリー・クリントンの選挙で意義を申し立てたが,いずれも民主党の大統領候補がすでに敗北を認めていたため,異議は成立しなかった。また,2005年にはブッシュ対ケリーの選挙でオハイオ州の選挙結果に対する異議が成立したが,下院および上院での採決の結果,異議は否決された。

ひと波乱が予想される両院合同会議

 これまで合同会議の模様などは関心が持たれず,筆者も初めてその手続きを知ったが,両院合同会議で選挙人による投票結果がひっくり返されたことは,南北戦争後に再統一された南部11州の再建期(1865−1877年)以降は全くないという。

 しかし,今回はどうなるだろうか。すでにアラバマ州選出のモー・ブルックス共和党下院議員が合同会議で異議を申し立てる予定で,異議提出に必要な上院議員1名の共同署名者を探している。まだ上院議員で賛同者は出ていないが,ブルックスはアリゾナ,ジョージア,ネバダ,ペンシルバニアおよびウィスコンシンの5州で程度の差はあるものの,不正で違法な投票が行われたため,選挙結果を無効にすべきだと主張している。すでにこれら5州はバイデン当選の証書を上院議長に提出しているが,ブルックスはこれに挑戦する。また,これら5州にミシガンを加えた6州の共和党議員はトランプ支持の選挙人名簿(slates)を作る協議を続けているという(注3)。

 ブルックスは下院共和党の最右翼の議員連盟フリーダム・コーカスのメンバーでトランプの強力な支持者だが,共和党議員は依然としてトランプ支持で固まっている。ワシントンポスト紙が12月2日から上下両院のすべての共和党議員249人に質問し,その回答を集計しているが,15日付の同紙記事によると,バイデン勝利と認識している議員は僅か37人に過ぎない。トランプ勝利とする者は2人だが,208人は回答を避けている。また,トランプが依然勝利を主張していることに反対する者は僅か10人,賛成する者は129人,無回答108人である。さらに,選挙人投票でバイデンが勝利した場合,バイデンを合法的に選ばれた米国の大統領として受け入れるかとの質問に対して,受け入れるは42人,受け入れない2人,無回答204人であった(注4)。12月14日の選挙人投票でバイデン勝利が決まっても,共和党議員の認識はこんな状況なのである。

 テキサス州の司法長官が12月8日,ジョージア,ミシガン,ペンシルバニアおよびウィスコンシンの4州のバイデン勝利の選挙結果を無効にするよう求めた最高裁への提訴には,17州の共和党当局者と106人の共和党議員が参加したが,3日後の11日,最高裁はテキサス州には提訴する根拠がないとして却下した。さらに10日には上記4州の司法長官がテキサス州の訴えを棄却するよう最高裁に求めた。ペンス副大統領はテキサス州の訴訟を支持していると伝えられたが,11日に最高裁が訴えを却下すると,翌12日には首都と数州の州都で数千人の抗議デモが行われ,被害者も出た(注5)。

 一方,12月14日の選挙人による投票結果を受けて,11月3日以降沈黙を守ってきた上院の最有力者であるマコーネル院内総務は選挙後はじめてバイデンに電話して当選を祝福するとともに,共和党議員に対して1月6日の合同会議で選挙人の投票結果を覆さないよう説得し始めた。バイデンとマコーネルはともに1942年生まれで,マコーネルの方が9ヵ月年長だが,お互いに上院議員を36年務め,マコーネルは1月から7期目に入る。互いに気心の分かった仲で,バイデンはマコーネルの電話に感謝し,「意見が違うところもたくさんあるが,一緒にやっていけることもある」と言っている。

 筆者は本サイト(12月7日付,No.1969)でトランプ大統領が敗北を認めるのは,早ければ来年の1月6日,場合によっては1月20日正午より前までとなろうと書いた。しかし,この判断は間違っていた。トランプには敗北を認める器量も良識もない。敗北を認めない以上1月20日のバイデン新大統領の就任式もボイコットすると筆者はみる。ボイコットするのは1869年のジョンソン第17代大統領が3人目でそれ以降は皆無である。

[注]
  • (1)2016年の選挙人投票はトランプ側の選挙人306人のうち2人,クリントン側の選挙人232人のうち5人がそれぞれ他の人物に投票したため,両候補者の獲得選挙人数は有権者による一般投票の時点に比べて減少したが,トランプの当選に影響はなかった。憲法上選挙人は候補者に投票することを求められていないため,他の人物に投票しても違法ではない。しかし,2020年7月,連邦最高裁は一般投票で勝利した候補者に投票することを選挙人に義務付ける権限を州に認めた。この最高裁判決が,今回不誠実選挙人の出現をなくしたものと思われる。
  • (2)ニューヨーク・タイムズ(NYT)13日付:The Electoral College Is Voting Today. Here’s What to Expect.および14日付:Can Congress Overturn the Electoral Results? Probably Not.
  • (3)NYT 14日付: Electoral College Vote Officially Affirms Biden’s Victory.
  • (4)ワシントンポスト,12月15日付:Where Republicans in Congress stand on Trump’s false claim of winning the election. この調査の記事は12月10日に最初に掲載され,その後更新されてしる。12月10日付ではバイデンを勝者と認めたのは27人だった。勝者と認めた上院議員にはコリンズ,マコーネル,マコースキー,アレクサンダー,コーニン,ルビオ,サスなどがいる。
  • (5)日本ではこの最高裁判決に抗議し,依然としてトランプは負けていないと主張し,トランプ大統領の選挙は不正だという46分間の演説(12月2日)を日本語の字幕付きで拡散するグループがいる。何とも理解し難いことである。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1982.html)

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