世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1954
世界経済評論IMPACT No.1954

生態系配慮の工業化“SDGs9”

朽木昭文

(国際貿易投資研究所 客員研究員・放送大学 客員教授)

2020.11.23

新型コロナウイルス後の工業化

 新型コロナウイルスの大きな教訓の1つは,地球が生態系(エコシステム)の維持なくして成り立たないということである。一方で,経済成長をどう対処すればよいのか。工業化は必要ないのか。

 国連本部は,2020年7月目標をSDGs9の「持続可能な工業化,イノベーション育成,復元力のあるインフラストラクチャー」の重要性を強調している。国連工業開発機構は,特にこのSDGs9にかかわっている。

 SDGs全体は,17の項目からなり,特に貧困,飢餓,健康,教育,ジェンダー,経済成長,産業,不平等,平和などが注目される。また,環境に関しては,安全な水,クリーン・エネルギー,持続可能なまちづくり,気候変動への対策,海の豊かさ,陸の豊かさなどが関連する。そして,新型コロナウイルス後には環境の重要性が指摘され,SDGs9の工業化でも同様となった。

 国連工業開発機構のITPO東京では,日本企業が外国直接投資を推進することによって包括的,持続可能な経済発展を達成する努力において開発途上国を支援する。その際に,民間企業,研究所などとのパートナーシップを追求する。開発途上国の成長戦略は,「産業集積」の形成である(Kuchiki(2020)に詳細)。

 投資の意思決定において,ESGも考慮に入れる手法が「ESG投資」と呼ばれる。ESGは,企業にとってビジネス機会をもたらす点でSDGsと共通する。ESGのEとは,Environmentの環境,SとはSocialの社会,GとはGovernanceのガバナンス(企業統治)である。この3つの観点が薄い企業は,長期的な成長が難しいという意識が広がっている。この背景の一因として,環境が民間企業のビジネスとして成立するようになったことである。ここに,官と民が環境に対応する条件が成立した。

国連工業開発機構のSDGs9の取り組み

 ところで,2020年10月20日に国連工業開発機構のシンポジウム「新型コロナウイルス後の包括的かつ持続可能な工業化とSDGs」が開催された。ジェフリー・サックス・ハーバード大学教授は,概論として新型コロナウイルス後の6つの移行を指摘した。すなわち,教育,健康,都市問題,デジタル化であり,環境関連では「クリーン・エネルギー」,「ゼロ二酸化炭素の土地使用」である。

 また,アルケベ・オクバイ・エチオピア首相府経済計画長官が講演した。オクバイ長官は,日本とエチオピアの経済関係強化に寄与したことが認められ,2018年11月に日本の旭日重光章を授与された。オクバイ長官は,ジャイカ研究所大野泉所長や政策研究大学院大学の大野健一教授の協力によりエチオピアの経済成長政策を実施してきた。

 その長官は次の3点を指摘した。第1に,現存する生産能力の多様化,第2に復元力の構築のための政府と政策,第3に雇用創出のための世界の協調である。そして,エチオピアの工業政策については,「目標のある生産的な投資の招致」,「生態系(エコシステム)下での工業パークの構築」,「バリューチェーン・ネットワークの構築」,「脱炭素工業化」,「インフラ投資」の5点を挙げた。

「産業集積」への生態系配慮

 生態系への配慮とは,自然の山,川,海,空の「水の循環」を守ることである。過密のクラスターはこれを守ることができない。クラスターが新型コロナウイルスの原因となり,これを避けることが予防である。

 要するに,新型コロナ後の工業化は,SDGs9を生態系(エコシステム)を守りつつ実施する。グローバル化は時に停滞はあるが,技術進歩があり着々と進み,グローバルバリューチェーンは形成されていく。その際に,グローバル化においては「産業集積」と「産業集積」の連携は不可避である。そして,その前段階の産業集積の形成は,生態系(エコシステム)配慮なしに成立しない。つまり,生態系を守ることが大前提となる。

[参考文献]
  • Kuchiki, A. (2020) “A Flowchart Approach to Industrial Hubs and Industrialization,”(Chapter 19, A. Oqubay and J. Lin eds.) The Oxford Handbook of Industrial Hubs and Economic Development, Oxford University Press, https://doi.org/10.1093/oxfordhb/9780198850434.013.19.
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1954.html)

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