世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1824
世界経済評論IMPACT No.1824

新型コロナで消えた地方創生の切り札

小原篤次

(長崎県立大学国際社会学部 准教授)

2020.07.27

 7月22日の日経によると,内閣府は2012年12月から始まった景気回復局面が2018年10月に終わり,景気後退に入ったと判断すると伝えている。本来なら,2019年の消費税増税のタイミングに批判が再燃したかもしれないが,すでに新型コロナウイルスの影響で経済は激変しており,増税の是非はアベノミクスや安倍政権批判の材料としてはインパクトを持たないだろう。

「爆買い」は2015年の流行語

 安倍政権の地方再生の切り札は観光だった。観光客の消費額は地域経済,さらに国内総生産(GDP)にも寄与する。日本の飲食店,宿泊業,テーマパークなどサービス業の売り上げや利益につながる点で内需産業であるが,需要サイド,外国人観光客を主体にすれば,世界経済と地域経済がつながる。つまりインバウンド観光とは内需の外需化である。

 インバウンド客はリーマンショックや東日本大震災の影響で伸び悩んでいたが,安倍政権誕生の2012年からインバウンド客は順調に増えてきた。日韓関係の影響で2019年には伸び悩みを示していたが,3188万人で2012年の3.8倍のものぼっていた。日本銀行の量的緩和政策は円安を誘導し,観光ビザ緩和とセットで外国人観光が増加し,2015年の流行語大賞は「爆買い」となり,2015年,旅行収支が53年ぶりに黒字化している。ミクロでは,老舗デパートの高島屋の大阪店が2018年2月期売上高で同日本橋店を抑え66年ぶりに1位となり,この現象は3年間続いた。大阪店は関西国際空港と直結している。しかし,今年度は大阪店の落ち込みが大きい。2016年5月,学生とミナミに向かい,数百万円の時計が売れ,ドラックストアでは商品があふれそうな買い物かごを持ち,レジに並ぶ姿を観察した。

インバウンド影響度の高い地域

 地域にどの程度インパクトを与えたのだろうか。1位沖縄県4.3,2位京都府2.4,3位山梨県2.4。この数字は外国人観光客の延べ宿泊数を人口で除したものである。単位は倍数,2018年統計で算出した。観光庁などはアンケート調査を実施して消費額を推計するが,市町村別ではない。全国比較のため簡単な指標を筆者が考えた。インバウンド地域貢献指標と名付けたが,新型コロナウイルスの拡大で訪日外国人観光客が激減する中,インバンウンド地域影響指標と呼んだ方が良いだろう。この指標は4位大阪府1.7,5位東京都1.7,6位北海道1.6が続いている。

 大都市のほか,観光地,JR駅前などホテルの開業ラッシュで,新型コロナ拡大の後も,発注済のホテル工事が各地で続く。リニア新幹線の起点となる品川駅,東京駅八洲口の大規模開発に目を奪われる。乗降客数は新宿,池袋が2トップだが,歌舞伎町を持つ新宿東口,チャイナタウン化した池袋西口は雑居ビルが多く再開発に向かない。地方に目を転じると,北海道ほど大規模開発をしやすい場所はなく,北海道は観光ブームの好況と不況の影響を受けやすい。高層ビルには札幌駅前のJRタワーのほか後述するトマム4棟(占冠村)が含まれる。

インバウンド受け入れで突出する占冠村

 北海道の市町村別のインバウンド指標は札幌市1.8倍,函館市が2.6倍に対して,巨大リゾート地を持つ占冠村(人口約1200人)が223.1倍のほか,赤井川村(68.4倍),ニセコ町(41.7倍),倶知安町(28.3倍)などが上位にある。千歳空港から近く,洞爺湖やスキー場の観光資源を持つ地域である。スキー場の雪質で知られる占冠村や倶知安町はスキーシーズンとオフシーズンで客数が激変する課題を抱えながら,倶知安町は宿泊税を導入し,インバウンド需要を財源に取り込んだ。宿泊税は東京都,大阪府,京都市など大規模な自治体の先例ばかりで,全国の町村から期待を集めた。

高層リゾート・トマムのオーナーは中国系

 他方,占冠村では「アルファリゾート・トマム」が1980年代前半にオープン,30階以上のタワーホテル4棟を含む10棟の宿泊施設が設けられた。だが運営会社が経営破綻し,再生ファンドの出資のほか,同村も財政支援し星野リゾートによって再建した。村と星野の間で訴訟が起き決して順調な再建だったわけではない。現在は中国の投資会社,復星集団が100%保有し,星野リゾートが運営している。最高36階建ての高層ホテルがそびえたち,雲海の眺望を観光資源にしている。

 観光の専門家によると,北海道の経済界は沖縄県ほど観光振興に積極的ではなかったという解説もある。確かに,北海道は土地に恵まれて農業や水産業という産業基盤がある。リゾート開発など大型融資の不良債権化で北海道拓殖銀行の経営破たんも経験しており,観光に懐疑的な人が少なくない。銀行破たんがトマムの当時の運営会社の破たんに広がっていった。トマムは時代ごとに成功と失敗の象徴となってきた。

 仮にリゾート。ホテル,旅館の経営が再び,厚い雲に覆われても1990年代に比べると,権利関係が整理されており,譲渡は円滑なのかもしれない。日本の資本と外資のどちらが関心を持つのだろうか。外資だとしたら,どこからやってくるのだろうか。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1824.html)

関連記事

小原篤次

特設:コロナ関連

国際ビジネス

アジア・オセアニア

日本

最新のコラム