世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
コロナ感染下にみるASEANにおけるデジタル貿易のルールの取り組み
(金沢星稜大学経済学部 教授)
2020.07.13
コロナウイルス感染拡大にともない,ASEANでは,日本を含め地域協力が進んでいるのだろうか。
遠隔会議などオンラインを活用した会議が進んでいる。換言すれば,ビデオ会議は人々の生活に不可欠なサービスとなったとも言える。
このようなときだからこそ,以下のデジタル貿易のルール作りが急がれる。
特に個人情報保護という視点からのセキュリティ対策づくりが望まれている。
情報通信技術のさらなる発展により,Baldwinの唱える第三次アンバンドリングとしての「テレプレゼンス」や越境サービスが進んでいる(注1)。
では,ASEANにおいて,この点でいかに模索されているのか。
ASEANでは2016年以降,デジタル貿易に関するルール形成が進んできた。ただ,電子商取引協定を除き,個人情報保護やデータガバナンスに関する取り決めは法的拘束力がなく,一層の規律整備が求められている。個人情報保護を強化し,ASEAN各国の協力を円滑化することを目的とした点に配慮した枠組み作りがすでに2015年から具体化し動いている。全体のデジタル貿易ルールの形成が進んでいる。まず,ASEAN個人情報保護枠組みついてである。
ASEAN個人情報保護枠組みは,域内外の貿易および情報流通の促進・成長に貢献する観点から,個人情報保護を強化し,ASEAN各国の協力を円滑化することを目的に,2016年11月に採択された枠組みである。所管は各国情報通信関連省庁で構成されるASEAN情報通信相会合(TELMIN)で,基本原則として(1)個人情報の収集・利用・公開に当たっての同意・通知・明確な目的の必要性,(2)個人情報の正確性・完全性の担保,(3)個人情報の取り扱いに際しての安全性の確保,(4)情報アクセス・修正要求の受け入れ,(5)他国・地域への個人情報の移転に当たっての条件(同意,もしくは情報移転先が記載原則と一貫性のある個人情報保護を受けられることを担保する必要なステップを取ること),(6)個人情報が法的・ビジネス目的上で不要になった際の速やかな消去,(7)情報収集主体の責任,の7つを確認している(第6条)。なお,枠組みでは,各国の法令に基づき,当該原則の促進・実施に当たる協力を行うよう努力することが定められている(第3条)一方,会合参加者の意思の記録に過ぎず,何ら法的義務を構成するものでなく(第2条,また6カ月前の書面での通知により,自由に枠組みから脱退することができる(第16条)とされており,合意文書としては非常に弱いものとなっている。
では次にASEANデジタルデータガバナンス枠組みについてである。
ASEANデジタルデータガバナンス枠組みは,2018年12月のASEAN情報通信相会合(TELMIN)で採択をされた枠組みである(注2)。
域内データエコシステムの強化,法規制枠組みの調和,データイノベーションの促進の3つを目的として定め,サイバーセキュリティー,能力開発,実施協力の3つの推進を通じて,戦略優先分野への取り組みを整理している。ASEAN域内の物品貿易・投資・サービス貿易の主要協定に続く,電子商取引分野の協定は,ASEAN電子商取引協定として,2019年3月に署名が行われた。しかし,これはあくまで非拘束的な取り決めである(注3)
この取り組みがさらに進み,非拘束的な取り決めから何らかの拘束的な取り決めにするかが今後の課題である。では,その拘束的な取り決めにした場合に,どのような内容として合意できるのか。
例えば,RCEP交渉にも含まれていた電子商取引の分野においては,2018年11月12日に「ASEAN電子商取引協定」の署名式が第33回ASEAN首脳会議に併催するかたちでシンガポールで行われた。同協定はASEANで初となる電子商取引(EC)分野の協定である。
ソフトインフラである国内法制度整備を促すことも望まれる。
それらを中心として今後のさらなる協力枠組みのひとつになることを期待したい。
[注]
- (1)Baldwin, R.(2016) The Great Convergence:Information Technology and the New Globalization, Cambridge, MA:The Belknap Press of Harvard University Press.
- (2)FRAMEWORK ON DIGITAL DATA GOVERNANCE,2020年7月6日最終アクセス
- (3)ジェトロ「ビジネス短信」2019年05月28日,2020年7月6日最終アクセス
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