世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1798
世界経済評論IMPACT No.1798

オンライン授業が開けた,大学教育の「イノベーションの函」

平田 潤

(桜美林大学大学院 教授)

2020.07.06

 2020年初頭から新型コロナ感染症が猛威を拡大するなか,日本でも緊急事態宣言が出されて,4月~5月には外出自粛が要請・実施され,また「三密」回避のため,企業の働き方変化(テレワークの採用)をはじめ,日常生活の様相までが大きく変わった。大学も例外ではなく,多くの大学で卒業式や入学式等が中止になったばかりか,キャンパス自体が「ロックダウン」となり,同時にはじめて全国的に「オンライン(WEB)」授業が導入された。

 これは伝統的な講義形式が続いてきた「大学教育」が,ポストコロナに向け本格的にICT化を進める不可逆的な潮流とも言えるもので,今後「講義型」授業を中心として,大学教育においては,さまざまなイノベーションが期待できよう。

 拙稿はその意義と今後の課題について,私見によるアプローチを試みたものである。

 まず初めに,多くの大学でごく短期間にシステム対応を準備し,授業開始に間に合わせたICT部門担当者各位の献身的な努力に,深く感謝申しあげる。拙稿では,授業現場の一当事者である筆者の,直接・間接の「体験」(授業・会議・学会等)に基づくコメントを述べてみたい(筆者は大学で,金融分野を中心に初年次・入門的諸学の講義を担当するものである。以下は筆者の経験等に基づく全くの個人的意見であり,筆者の所属する大学・組織の見解とは無関係であり,また学会や,大学教育組織との関係もない)。

 今回多くの大学で,学生と大学教員とをネットで結ぶZOOMを初めとする「各種ソフト・アプリ」によって,パソコン(PC)を通じての「同時双方向型講義」がほとんど全ての授業で導入された。このことは,従来の大学教育スタイル(伝統的対面講義式)を相対化すると同時に,授業のハード/ソフトに大きな変化を以下3つの座標軸でもたらした,と評価される。即ち現場の,1.講義スタイルの多様化,2.コミュニケーションのネット化,3.講義ソフトの多面化,である。

Ⅰ 講義・授業の変容

1.講義スタイルの多様化

 ZOOM等ソフト/アプリをプラットフォームとすることで,以下のような,①講演型,②「放送大学」型,③ユーチューバー型,④講義動画(録画)提供型,⑤TV会議型,等の授業が(講義者のICTスキルに応じて)実施され,講義スタイルが一挙に多様化した。①,②,⑤では,もちろんリアルタイムでの双方向対応型の講義展開が可能である。②では実際に教室に放送スタジオ的な環境設定を行ったり,⑤では外部の識者や企業人等が招聘でき,また遠隔地からの議論参加が可能となる。これまで物理的/時間的制約により,難しかった展開がデジタル空間を通じて容易になった,ともいえよう。

 もちろん,今のところ授業空間がPCの画面でかなり狭い(小さい)ことや,奥行き(立体性)感に限界があることや,頻繁な画面の切り替えや分割により,聴講する学生の理解度が損なわれる,といった課題が残ると思われる。

2.コミュニケーションのネット化

 今後,通常の「オンキャンパス」による講義スタイルが回復した場合でも,ネットによるコミュニケーション・ツールの活用頻度は,一層高まると思われる。

 現在のオンライン授業では,無人の壁(PC)に向かって一方的に話すという状況が生じる。これは授業開始時や質問時に,PCで学生の顔や声を確認することで(非接続の)不安は解消できるにしても,相手の反応が得られない時間は長い。そこでこれをフォローし,双方向的コミュニケーションを回復するtoolとして「チャット機能」や「メール機能」が不可欠となり,常用される。

 一般に伝統的な対面型授業では,履修生の数が多くなればなるほど,個々の学生が質疑などを通じ,教員と直接コミュニケーションを取る機会は減ってくる(教員は授業の感想を求めたり,アンケートを取ったりしているが,双方向的或は即応的なフィードバックが常時できているとは言いかねる)。さてこれまでもネットによるコミュニケーションは行われていたが,オンライン授業では,チャットやメールがまさに「正式なコミュニケーション手段」として活用(せざるを得ない)され,またそのことで,より多くの学生のニーズ(質問・感想/コメント・連絡など)に対応することが可能となった面がある。同時に学生が徐々に,各種授業に対して,TV視聴者と同様なスタンスで,様々に「比較」「評価」していく(録画機能で見直しができる)ことは自然の流れと言え,教員側は,授業(内容/プレゼン・スタイル)の不断のレベルアップを,一層求められるであろう。

3.講義ソフトの多面化

 学生諸子の活字離れとは対照的に,デジタル化された情報は,今や非常に多面化されており,オンライン授業では,通常の資料(ワード),スライド(パワーポイント〔PPT〕)の他に,電子書籍,各種のアプリ,動画作成,ユーチューブ動画,などが活用でき,PC画面上での作業や,ネットでの検索が可能である。これまでの,教員がホワイトボードを使って手書きの情報を提供〔オンライン型授業でも可能ではあるが〕するというシーンは,かなり減少すると思われる。

 一方学生にとっても,教員が板書する内容をノートに懸命に引き写す(或は写真を撮る)という負担はかなり省力化でき,また復讐を行う際に,録画機能などが積極的に活用できる。

 ここで教員は従来のような著書などテキスト・参考書(紙の活字媒体)に沿って解説していくといった展開は難しくなる。電子書籍化した場合でも一覧性に欠けるなか,一部をピンポイント的説明した場合,分かり易いとはいえず工夫が求められよう。

Ⅱ 利便性の拡大(需要者)と,教育力(供給者)格差の拡大

 オンライン授業では,講義者(供給者)のICT能力・力量がまず問われ,その結果,教育力に格差が拡大することはいうまでもない。さらにオンライン配布資料・データや講義は,繰り返し視聴可能であるため,内容が検証される。一方講義資料(動画やスライド)は作り置き・使いまわしが可能である反面,長期的には,優れた講義(或は講義ソフト)を提供する大学に対する評価・需要・人気が高まっていく流れができる可能性は高い。「オンライン大学」が可能となった以上,全ての講義は半ば「公開」されたも同然だからである。

 一方で,ネット空間で授業にアクセスすることが可能となったデジタル世代の学生は,今後はオンキャンパスが不可能な際(病気や就活)での利用をはじめ,各種学習に積極的に活用していくであろう。

Ⅲ さらなるイノベーションへの期待

 (筆者の理解している範囲の議論で恐縮だが)現段階で今回のオンライン授業に対して,筆者がさらなる創意工夫が必要と気が付いた点(一部大学ではすでに実施されていると思われるが)を幾つか述べておきたい。やはり学習の中心となる「テキスト」や,授業のガイドラインである「シラバス」について,オンライン授業に対応した革新(イノベーションと評価したい)が期待される。

1.「オンライン対応」テキストの創出と活用

 活字媒体のICT化の点では,電子書籍がすでに活用・普及している。活字を載せた紙媒体がPC画面に移行した形の電子書籍をそのままの形で提示することは,学生の理解度(最大多数の最大理解),大学教育の効率性を考えた場合,必ずしもうまくいくとは限らず,やはり新たな「オンライン対応」型のテキストが求められよう。テキストの基本形はレジメ形式でもスライド(PPT)形式でもよいが,必要十分な量の「キーワード」を中心に,テーマ展開を工夫したり,詳しく説明する事項にはリンクを張ったりするなど,新たな大学テキストが望まれる。

 またスライド(PPT)の順繰りの説明や動画配信を多用すると時系列や項目別理解には効果的であるが,全体像の把握が弱くなるきらいがある。そこで,「マインドマップ」的な連鎖発想式チャートやグランドデザインの提示,フローチャートの作成により,連関〔必要に応じてリンクをはるなど〕を深める工夫など有効と思われる。

2.シラバスの授業媒体との連動とディスクロージャーの強化

 オンライン授業では,講義者との接触はWEBのみとなり,試験や,成績・評価といった段階まで全てオンラインで完結することになる。そしてシラバスには授業内容はもちろん,成績評価(方法やウエイト付け等)についても,これまで以上に,具体的に明示される必要がある。また成績評価の方法等は最初から公開され,透明性と公平性が学生に保証されていなければならない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1798.html)

関連記事

平田 潤

特設:コロナ関連

教育・学び

日本

最新のコラム