世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1632
世界経済評論IMPACT No.1632

老年よ荒野を目指せ!

市川 周

(白馬会議運営委員会事務局 代表)

2020.02.24

 令和の始まりはどことなく明るいムードが漂っていたが,新しい時代をどう切り拓くか明確なビジョンが示されているわけではない。昨年11月下旬に開催された第12回白馬会議では「令和ニッポンの青写真を描け」と意気込んだが,青写真の下書きを持ち帰った実感はなかった。我々の眼前は依然と荒野である。

中国化するニッポン?

 第1セッション【米中超大国間でどうバランスをとるか?】で川島真氏(東京大学大学院教授)は習近平の中国が高度に経済発展しても民主主義社会を指向しないという,西欧文明モデルとは全く異質な世界に自信を持ち始めていることを強調し,日本にとって今後の対米・中外交が従来型のバランス戦略では手に負えなくなると戒めた。一方,中国に親しみを感じないと日本人の8割が答えながら,その日本人の7割が中国を重要な国だと答える「成熟した関係」の難しさ,鬱陶しさにも言及した。

 この中国観は第3セッション【行政とどう立ち向かうか?】の基調報告者金井利之氏(東京大学大学院教授)の考え方と驚く程重なっていた。金井氏はかつて勢いのあった「地方創生」が,自治体間のゼロサムゲーム的な競争世界の中に陥没してしまったと断じた。その背景として,日本という国家社会が「政治的民主主義」(個人の真の自由がない誘導管理された民主主義)と経済的自由主義(競争を是とする弱肉強食型市場主義)の結合した,将に川島氏が指摘した中国モデルに近似し始めている点を挙げた。

デジタル独裁vsデジタルコモンズ

 金井氏は「政治的民主主義」が「みんなで決めたことにみんなで従うのは当たり前」という前提のもとに誘導されるという。その「みんな」の正当性がAIやビッグデータによって飛躍的に「精緻化」されれば,「デジタル独裁」とも言える中国型サイバー空間管理も可能になる。

 この問題を第2セッション【“第4の波”にどう立ち向かうか?】の基調報告者松田学氏(松田政策研究所代表)も「ヒットラーとAIが重なる悪夢」と強く警告し,資本主義競争社会と共存し得る「協働型コモンズ」を提唱,その実現のためにブロックチェーンや仮想通貨という非中央集権型デジタル情報技術の活用を提起した。

 川島氏,松田氏,金井氏の三氏に共通していたのは,西欧モデルの焼き直しでは令和ニッポンの青写真はあぶり出せないが,中国モデルへの急接近もあり得ないという葛藤であった。

「老中青三結合」型社会への予感

 第4セッション【若者はどう未来をつかもうとしているのか?】の基調報告者西田亮介氏(東京工業大学准教授)は白馬会議歴代最年少のセッション報告者であった。西田氏は,昭和世代が大きな役割を果たした平成時代は贔屓目にいってもうまくいかなかった。そのうまくいかなかった知見を持ち出し,令和の青写真づくりと言われても困ると明確な権限委譲請求を突きつけてきた。

 但し,こちらにも言い分がある。現在,65歳以上の人口比率は28%台だが,後30年足らずで4割程で高止まる。それから100年近くは15歳未満が1割,15歳~65歳が6割で人口比率が固定定常化する「老中青三結合」型社会に入っていく。

 ちなみに「老中青三結合」は中国文革時代に毛沢東が叫んだ言葉だが,「老中青三結合」型社会で問われるのはピラミッド型人口構成時代の権限委譲システムではない。それぞれの世代階層が当事者意識を持って日本文明の共創に参画していく新しい意識と行動である。この実験はかつてどの文明も経験したことがない。「老年」も一緒に荒野を目指すニッポンに期待したい。

*詳細報告書とダイジェスト動画を白馬会議のウェブサイトに掲載。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1632.html)

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