世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1593
世界経済評論IMPACT No.1593

なぜ,韓国はホワイト国(Aグループ)に戻れないのか

安室憲一

(兵庫県立大学 名誉教授・大阪商業大学 名誉教授)

2020.01.13

 2018年5月3日,安倍首相ご夫妻のイスラエル訪問で,ある不可解な出来事があった。ネタニヤフ首相が主催する夕食晩餐会の最後に,靴の形をした容器に詰められたチョコレート菓子が提供された(グーグルで「靴の形をしたデザートの意味は?」で検索」,解説文と写真が掲載されている)。シェフは有名な創造的料理人で,ネタニヤフ氏は芸術作品と手放しで称賛していたそうだが,これはユダヤ独特のブラックユーモアだろう。これは,どう見ても侮蔑である。彼は日本の首相に何を警告したかったのだろうか。これは筆者の推測だが,イランが核開発を再開したとき,手に入るはずのない高純度のフッ化水素が使用され,その出どころが日本(製)だったからではないか。イスラエルの諜報機関は,日本が密輸でイランを幇助していると誤解した。それが,「靴のデザート事件」の真意ではないか。2018年11月5日,米国政府はイラン制裁を再開した。問題は,北朝鮮よりもイランだったのである。

 ところが,不思議な取引協定がイランと韓国の間で締結されている。2018年12月2日,イランと韓国の間で「物々交換」での取引が合意されたそうだ。イランは原油,韓国はイランが国際市場では手に入らない「物質」を提供する。つまり,韓国は「物々交換」により,アメリカのイラン制裁の裏をかこうとしたと解釈できる。

 その直後の2018年12月20日に瀬取り監視に赴いた自衛隊哨戒機に韓国の駆逐艦がレーザービーム照射をする事件が起きた。この映像が世界中で放映され,日本の無実が証明された。この時点で勝負はついたのである。韓国は国を上げて瀬取り(密輸)に従事していたわけで,瀬取りで渡された物質は高純度フッ化水素であろう。というのは,当時韓国内でもなぜ日本からの高純度フッ化水素の輸入が急増したのか。どう使用されたのか,が話題になっていたようである。韓国政府の説明は,品質不良のため日本に返品した(数十万トンという説もある,2018年だけでも約3300トンが行方不明になっている)という。しかし,現実には一つも日本に戻っていない(ただし,120キログラムの返品があったという説もある)。日本海を渡る間に消えてしまった。つまり「瀬取り」で消えたと考えられる。あくまでも推測にすぎないが,これが韓国とイランの間の「物々交換」協定の目的ではなかったか。

 この情勢を受けて,2019年3月中旬に,フランスや英国が北朝鮮や韓国の瀬取り監視に乗り出すことになる。つまり,イランの核開発と北朝鮮が支援するミサイル技術の移転に,EUとイスラエルが危機意識を高め,アメリカを突き動かしたことがわかる。おそらく,アメリカの圧力を受けた経済産業省は,2019年7月1日,半導体材料3品目(レジスト,高純度フッ化水素,フッ化ポリイミド)について包括的輸出許可から個別輸出許可へ切り替えると発表した。国際的な韓国包囲網から見れば,遅いくらいの対応である。これも,韓国側がきちんとした輸出管理体制と法律を整備したら,「Aグループ」に戻す可能性もある,という甘いものだった。

 最後のとどめは,2019年7月15日,イスラエルのリブリン大統領が韓国を訪問し,黒塗りのタルムート(古代のユダヤ法典のうち刑法部分)を文在寅氏に贈呈したことである(グーグルで「イスラエル大統領が文在寅氏に黒塗りのタルムートを贈呈した理由」で検索,写真と解説文が見られる)。これは明らかに「あなたは有罪だ,いずれ刑罰がくだされる」という意味だろう。これは安倍氏の靴よりもわかりやすい。しかし,受け取った文在寅氏は「稀少本」を貰って嬉しい程度の意識しかなかったろう。つまり,文在寅氏に対する世界の有罪宣告は,この時点で下されたと見ることができる。

 この流れを受けて,2019年8月28日,安倍政権は韓国をホワイト国から除外する。翌月の9月7日,イランはウラン濃縮度の引き上げを見送る。韓国に対する規制強化が「成果」をもたらしたのであろう。

 不思議なことに,ホワイト国からの排除に対して猛烈に反発したのが,文在寅大統領と大統領官邸(青瓦台)である。先進国並みの輸出管理制度を作れば,詳細なデータなどが残り,「瀬取り」などの不法な輸出はできなくなる。韓国の輸出管理体制は現状のザル状態がいいのである。

 そこで,ありとあらゆる「反日材料」を動員して,日本に圧力をかけ始めた。つまり,ホワイト国復帰を自助努力で達成するのでなく,労使交渉のような「協議」の場で,力ずくで復帰を飲ませようとした。しかも,日本の韓国ホワイト国除外の不当性を国際機関で訴え,アメリカに働きかけて日本を説得するよう要求した。アメリカが動かないとわかると,今度はアメリカを脅すために「GSOMIA破棄」を宣告した。滑稽の極みと言わざるを得ない。アメリカの「GSOMIA破棄宣言」に対するプレッシャーは尋常ではなかった。それに,韓国側はトランプ氏がユダヤ教に改宗していたことも見落としていた。

 世界各国の首脳は,文在寅氏が,イスラエルの大統領から黒塗りのタルムートを渡されたことの意味を知っている。知らないのは本人だけである。もし仮に,日本が韓国側に譲歩して輸出管理を緩めたら,今度はアメリカやEU,イスラエルが黙っていない。激しく安倍首相に圧力をかけるだろう。日本としては,1センチたりとも退くことはできないのである。その代わり,世界の指導者が安倍首相をバックアップしてくれる。中韓日の3カ国協議でも安倍首相が毅然とした態度で,香港や新疆ウイグル地区の人権問題の懸念を述べられたのは,日本の背後にはアメリカ,EU,イスラエル等の支援があるからである。他方,世界の孤児になった文在寅氏はなんの発言力も残っていなかった。彼にとって「人権」とは韓国人に限られ,世界普遍の概念ではないのだろう。

 最後に一言。2019年12月12日,ついにイランは韓国に原油代金の支払いを強く要求した。その金額は7兆ウォンと言われている。このニュースを見て,「ああ文在寅氏は,この金額を踏み倒すつもりだったな」と合点がいった。どうしても分からなかった文氏の動機――ミッシングリンクが繋がった瞬間である。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1593.html)

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