世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1577
世界経済評論IMPACT No.1577

一帯一路構想とインド太平洋構想:求められる連結性分野での相互補完

石川幸一

(亜細亜大学アジア研究所 特別研究員)

2019.12.16

共通する連結性重視

 一帯一路構想に対する批判が高まり,対応が議論されたときに強調されたのが代替案の必要性である(注1)。その具体策がインド太平洋構想である。インド太平洋構想は,2016年の第6回アフリカ開発会議で安倍総理が「自由で開かれたインド太平洋構想」として提唱した。それ以降,米国,豪州,インドに加え,2019年にASEANが構想を発表し,5つのインド太平洋構想が提示されている(注2)。インド太平洋構想は,航行の自由,紛争の平和的解決など中国の海洋進出に対するけん制とともに質の高いインフラによる連結性の実現が共通している。一帯一路構想は極めて多様な事業を含むが中核となっているのはインフラ構築である。インド太平洋構想と一帯一路構想は連結性という点で共通している。

 一帯一路構想は中国の中西部の交通インフラ整備を国境を越えて拡張する政策であり,交通インフラでは優れて「一貫性」を持つ政策である(注3)。この政策は「西部大開発」において広域幹線道路から幹線鉄道の整備と高速化,交通・物流結節点となる拠点都市の整備へと展開した。中西部を起点に国境を越えて西方に向かう国際交通インフラの整備が一帯一路構想である。陸路に加え,港湾への投資も活発であり,南アジア,豪州,欧州,アフリカなどの約40の港湾の建設や出資,運営権の獲得が行われた。

大きな資金規模の違い

 一帯一路構想とインド太平洋構想は連結性で共通するが,その違いは規模である。一帯一路構想の全体の投資規模を中国政府は明らかにしていないが,世界銀行によると,一帯一路構想の70沿線国への投資額は5650億ドルである(注4)。交通インフラへの投資規模は1440億ドルだが,沿線各国の情報を積み上げるボトムアップアプローチによると3040億ドルとなる。沿線国が拡大していることなどから一帯一路構想の資金規模は5650億ドルを相当上回るだろう。

 一方,インド太平洋構想では日本政府が2015年に質の高いインフラに約1100億ドルの投資を行うことを表明し,2016年には質の高いインフラ輸出拡大イニシアティブで約2000億ドルの資金などを供給するとしている。米国政府は2018年に開発指向型投資利用向上法(BUILD法)により国際開発金融公社設立を決定し,開発金融能力を600億ドルに増加すると決定している(注5)。日米の資金を合計しても一帯一路構想の資金規模には遠く及ばない。

 たとえば,アフリカでは,インド太平洋構想のプロジェクトとして日本政府がケニアのモンバサ港とその周辺回廊の整備を行っている。一方,中国は,一帯一路構想により港湾建設をタンザニア(バガモヨ港),ジブチ(ドラレ多目的港)で行い,鉄道建設・改修をケニア,アンゴラ,ナイジェリア,エチオピア-ジブチで行っている。また,2019年にはアフリカ横断鉄道が開通した。53ヵ国の参加する中国アフリカ協力フォーラム(FOCAC)の第6回会議(2015年),第7回会議(2018年)でそれぞれ3年間で600億ドル以上の支援を表明している(注6)。

一帯一路の経済効果

 債務の罠など一帯一路構想のネガティブなイメージの報道が多いが,経済的な効果はないのだろうか。世界銀行は一帯一路構想の交通インフラの経済効果の試算を行っている(注7)。それによると,一帯一路構想の90の交通インフラプロジェクトにより6つの経済回廊(注8)の沿線国(70)では輸送時間の短縮で輸送コストが最大で12%低下する。輸送コスト低下により沿線各国では貿易が2.8%~9.7%増加し,低所得沿線国では外国直接投資が7.6%拡大する。貿易拡大により沿線国の実質所得は1.2%~3.4%増加し,沿線国では生計費1日1.9ドル(購買力平価)以下の貧困層760万人,同じく3.2ドル以下の3200万人の生活向上をもたらし貧困削減に貢献する。一帯一路構想は沿線国以外でも経済効果があり,輸送コストは平均3%低下し,貿易は1.7%~6.2%の増加となる。

 交通インフラの効果の正確な試算は難しく,効果は国により大きく異なることに留意が必要としている。たとえば,キルギス,パキスタン,タイでは所得増加が8%を超えるが,アゼルバイジャン,モンゴル,タジキスタンはマイナスとなっている。一帯一路構想には,交通インフラ以外に交通円滑化,エネルギー,工業団地・輸出加工区,都市開発,製造業投資,FTAなど多くのプロジェクトが含まれており,全ての分野を含めた経済効果はさらに大きくなるだろう。

連結性での一帯一路とインド太平洋の相互補完

 アジア・ユーラシア,インド太平洋,アフリカ地域のインフラニーズは極めて大きい。アジア開発銀行によると,2016年~30年の15年間のアジアの途上国のインフラ資金需要予測額(気候変動調整済み)は26兆ドル,年平均1.73兆ドルである(注9)。アフリカ開発銀行は2010年から2040年までのアフリカのインフラ資金需要を3600億ドルと試算している(注10)。アフリカを加えればインフラ資金需要はさらに大きくなり,一帯一路構想とインド太平洋構想を合計してもインフラ資金需要を満たすには不十分である。

 従って,連結性分野では一帯一路構想とインド太平洋構想でのインフラ整備の連携と相互補完が重要である。GMS(大メコン圏開発)では,東西経済回廊を日本が整備し南北経済回廊は中国が支援するなどの事例がある。スリランカでは,日本がコロンボ港の東ターミナル開発をインドとともに進めることで合意し,中国はコロンボ港で大型コンテナターミナル建設を行うなどこれまでも相互補完は行われている。受入国では一帯一路構想とインド太平洋構想の選択肢があることにより,中国への過度の依存を避けることが可能となる。

 一帯一路構想は,透明性の欠如,経済性への疑問,債務問題,中国企業の受注,中国人労働者の派遣などが国際的に批判されてきた。とくに,スリランカのハンバントタ港で債務返済の代わりに港湾権益を中国企業が99年間の租借することになったことが債務の罠として批判あるいは警戒感が広がった。

 真家(2019)によると,中国では2018年から一帯一路構想への見直しが行われており,一帯一路構想は転換期に差し掛かっている(注11)。商務部・外交部の対外援助事業部門を統合した国家国際発展協力署が設立され,2019年4月の第2回一帯一路国際協力サミットファーラムで習近平国家主席は,「国際ルール・基準に従い,各国の法律・法規を尊重する」と批判に応えていくことを表明している。インド太平洋構想での質の高いインフラの推進は一帯一路構想の見直しと問題点の改善を進めることに寄与するだろう。

[注]
  • (1)たとえば,2018年1月25日に米国議会の「米国中国経済安全保障調査委員会」が「中国の一帯一路イニシティブ-5年後」というテーマで公聴会での米国の専門家の見解。http://www.iti.or.jp/flash405.htm
  • (2)5つのインド太平洋構想については,http://www.world-economic-review.jp/impact/article1527.html
  • (3)町田一兵(2019)「一帯一路構想で進展するアジア・ユーラシアの物流」,平川均ほか『一帯一路の政治経済学』文眞堂,50-56頁。
  • (4)World Bank (2019), Belt and Road Economic Opportunities and Risks of Transport Corridors.
  • (5)石川幸一(2019)「自由で開かれたインド太平洋構想」,平川ほか前掲書,229頁。
  • (6)佐々木優(2019)「一帯一路構想とアフリカ」,平川均ほか前掲書,202頁,210-213頁。
  • (7)World Bank (2019), Belt and Road Economic Opportunities and Risks of Transport Corridors.
  • (8)6つの経済回廊は,①中国・モンゴル・ロシア経済回廊,②新ユーラシア・ランドブリッジ,③中国・中央アジア・西アジア経済回廊,④中国・インドシナ経済回廊,⑤中国・パキスタン経済回廊,⑥バングラデシュ・中国・インド・ミャンマー経済回廊,である。世界銀行によると,6つの経済回廊で89,中国・オセアニア・南太平洋ブルーオーシャン経済回廊で一つの交通インフラプロジェクトがある(計画中などを含む)。
  • (9)Asian Development Bank (2017), Meeting Asia’s Infrastructure Needs.
  • (10)Africa Development Bank (2010), The Program for Infrastructure Development, Infrastructure Outlook 2040.
  • (11)真家陽一(2019)「一帯一路構想を巡るファイナンス」,平川前掲書,89-95頁
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1577.html)

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