世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1373

EU(ユーロ圏)諸国が直面した「危機と停滞」

平田 潤

(桜美林大学院 教授)

2019.06.03

 先週(5月23〜26日)に,5年に一度の欧州(EU)議会選挙が行われ,EU懐疑派とされる会派は,フランス・イタリアといったEU中核国で第一党となり,全体の約3割の議席を占めた。一方,これまで統合と深化を推進してきた主流派=ドイツ等の各国首脳等が属する中道2会派(欧州人民党・社会民主進歩同盟)の議席数は初めて過半数を割り込む,という結果になった。EU国民による最新の審判として,重く受け止められるべきであろう。

 さて欧州共通通貨「ユーロ」誕生(1999年1月,11か国でスタート)から,今年(2019年)で20年を経過した。またユーロの青写真である「ドロール報告書」(1989年,経済通貨同盟〔EMU〕の実現に至るまで3つの段階を定めたロードマップを策定)が採択されてから,30年を数える。

 こうしたことから現在,ユーロや,ユーロ誕生後のEUの足跡/成果に対する,総合的な検証が行われている。このユーロの準備段階から現在までの30年について,概括的に回顧してみると,

  • Ⅰ.「準備と改革」の時代(1989年〜99年)
  • Ⅱ.「成果・躍進からユー(ロ)フォリア」の時代(2000年〜2008年)
  • Ⅲ.「危機と停滞」の時代(2009年〜現在)

と,評価することができる。

 Ⅰではマーストリヒト条約(1992年調印)によりEUが誕生すると共に,通貨統合のための厳しい経済収斂条件(財政赤字の対GDP比率など)が設定され,各国に構造改革を促した。

 とくにそれまで改革を先送りしていたイタリアでは,その後6年にわたり,政府支出削減,社会保障見直し,国有企業改革,財政規律強化に踏み込むなど,イタリア病に正面から取り組んだ。

 Ⅱのユーロ誕生は,EUの統合と深化に大きな前進をもたらした。とくに東西統合コスト負担に苦しんでいたドイツは,ユーロ誕生により,従来の自国通貨(マルク)高による輸出への逆風を免れ,一方南欧諸国では根強いインフレや国債利子負担を劇的に改善し,さらには投資増大により経済成長が高まった。共通市場であるEUで通貨のリスクが無くなったことで,域内M&Aや企業競争が促進され,新陳代謝が進行した。2000年代前半には内外からの資金がユーロ圏に流入し,通貨価値は大きく上昇した。さらに統合により発言力を増したEUは,様々な分野でのEUスタンダードの設定や加盟国の東方への大幅な拡大を達成し,記念すべきアテネ五輪大会(2004年)前後ではユー(ロ)フォリア(バブル)の様相も呈した。

 Ⅲは,しかし2008年リーマンショックによりEU域内金融部門は大きなダメージを蒙り,銀行等の救済や実体経済悪化に対処するため,各国は大幅な財政出動を余儀なくされた。さらに域内の最も弱い環=ギリシャで財政赤字粉飾が露見し,「ギリシャ債務危機(2009年)」が勃発した。危機は同じく財政赤字問題を抱える南欧諸国等に波及し,各国の国債危機からユーロ不安にまで発展した。EU(欧州安定メカニズムESM)・IMFを交えての支援策は条件面で難航し,結局ECB〔ドラギ総裁〕による果断な資金供給(コミットメント)や金融緩和により,市場は落ち着いたものの,ユーロ圏には大きな亀裂と対立が鮮明化した。その後もドイツが主導する財政規律重視,緊縮財政路線は,域内経済成長で輸出依存度を増す結果となった。先進国の金融緩和が続く中,好調なグローバル経済を反映しEU経済も回復基調にあったが,今度は2016年に,英国のEU離脱(Brexit)の激震が襲った。

 ここで,このⅢ「危機と停滞」(2009年〜現在)の時期について,3つの側面(1.ユーロの信認,2.EUへの信認,3.EU〔ユーロ圏〕経済)から概括的な評価を行ってみたい。

 まず,1.共通通貨ユーロに対する信認である。ユーロについて,そのグローバル通貨としてのポジショニングを①国際準備通貨,②国際決済通貨,③国際金融取引(債券や与信等資金調達手段)通貨,について行ってみると,ユーロは①外貨準備では,現在約20%(ギリシャ危機直前時には30%に近づいていたが,危機以降は低下傾向),②では域内(ユーロ導入は19国)の取引による使用を反映して概ね35 〜40%を維持し,③国際債券(10%前後)や銀行貸出通貨(30%)の使用では,1位のUS$との差が依然大きい。ユーロのプレゼンスは上記のⅡの時代,堅調に拡大し,第二の基軸通貨として地位を確立したものの,Ⅲの時期にきて,頭打ちないし,US$に再び水をあけられている,といえよう。現在はギリシャ債務危機でみられたユーロ危機といった状況はみられないが,一方で中国が躍進し,「人民元」の国際通貨化が長期的な戦略として進行しているなかで,ユーロの一段のグローバル通貨化への努力が求められている。

 次に,2.統合の主役「EU」への信認であるが,これについてはEU各国民による選択として,5月下旬の欧州議会選挙の結果と,EUからの離脱を選択した英国の国民投票が,重い結果を示している,と見ることができる。各国におけるEU懐疑の派躍進の共通項として,まず①移民/難民を巡る制限的スタンスへの支持があり,背景に,a.ヒトの移動と社会的安定のバランスの崩壊(への不安),b.EUに根強い失業問題と雇用を奪われる反発,が存在するといえよう。Brexitに踏み切った英国と大陸諸国を同列にはできないが,ギリシャ債務危機以降,緊縮政策厳守要求への反発(イタリア等)や,雇用面等改革強行への抗議(フランス)など,EUの求心力は落ち込んでいる,といえよう。

 最後に3.EU(或はユーロ圏)の実体経済の量・質面の評価である。

 EUの拡大と深化が,EU経済にどのような発展/成果をもたらしたか,についての検証である。EU統合及びユーロは,経済成長を始め,実体経済拡大に着実に寄与したことはいうまでもない。

 またEUの域内,さらには世界基準を展望した制度/ルールの形成(標準化戦略)は,EUのグローバル戦略として大きな成果を挙げた。では経済の質的進化の点ではどうであったろうか? 当初の「世界で最も競争力と活力のある経済圏の構築を図る」を目的とする「リスボン戦略(2000年)」,その後継としての,a.知識とイノベーションを基盤とする経済の追求,b.より持続可能な経済,などを追求する「欧州2020」戦略は,いずれも不十分な実績に終わりつつある。とくにICT・AIなどデジタル革命の,消費者への浸透や利便性の拡大においては,米国や中国に後れをとり,イノベーション及びその担い手の創出や,企業化(ユニコーン輩出等)でも両国に見劣りしていることは否めない。

 このようにギリシャ債務危機(2009年)以降のEUは,3つの側面からみて「危機と停滞」の時代という評価を受けざるを得ない。そして確かにEUにこの「危機と停滞」を招いた直接の原因は,リーマンショック(2008年)という「外的なショック」〔金融危機〕と,ギリシャ債務危機(2009年)で顕在化したEU諸国が抱える「財政における構造問題」(財政統合が現状困難であることを含めて)である。しかし,これらの危機に加え,EU自体の戦略レベルでの失敗や,さまざまなミスマッチが引き起こした「政策危機」も多く指摘されるのである。

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