世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1359

ジレ・ジョーヌ:内外の支持と波紋

瀬藤澄彦

(パリクラブ日仏経済フォーラム 議長)

2019.05.13

ジレ・ジョーヌに秋波を送る極右極左政党

 長期間,続くジレ・ジョーヌ運動のデモはこれまでの左右党派の境界線を消滅させて,2017年の大統領選挙で明確になってきた既存の政治地図の崩壊を暗示しているとされている。ルモンド紙は「新たな左右の対立は,これまで価値観や経済政策の配分を巡っての勤労者や教師の左翼,資産階級や農業従事者の保守という2つの集団的連合のなかで展開されてきた枠を超えた」と論評している。新たなジレ・ジョーヌ運動のお陰でこれに参加するひとは自分の個人的な苦しみがここにきて始めて実は集団的なものであると認識するようになったという。このことはパリ政治学院のCevipof研究所が行った「ジレ・ジョーヌとはだれか」と題するアンケートでも浮き彫りにされた結果であった。この調査はジレ・ジョーヌ運動を次のように分析している。この運動を支持する人々は大体,2017年の大統領選挙でマリ・ルペンかメランションに投票するか,もしくは投票を棄権している。労働者の47%がジレ・ジョーヌを支持,またその支持者の内,70%近くが,平均所得水準や教育水準が劣っている世帯である。しかしこれだけではすべてを語ることはできない。

 当初はこのジレ・ジョーヌの動きの背景を定義するのは必ずしも容易ではなかったが,燃料費の上昇が自動車を日々の生活の重要な交通手段としている多くの郊外に住んでいる人々の購買力の問題の火に油を注いだ。メトロポールのフランスと周辺のフランスの社会的,地理的な大きな違いは,これまでも2005年の欧州憲法案国民直接投票や2017年の大統領選挙の時に明らかになっていた。マクロン大統領登場以来,左右の反対勢力は中道派マクロンを「金持ちの味方」,「都市重視」と批判してきた。2018年11月13〜14日にIFOPが行った世論調査によるとジレ・ジョーヌ運動に対しては,労働者,給与所得者,自営業者の60%近い支持と,管理職の30%弱支持という風に二つに分かれていた。

 このような状況は政治的にもポピュリストな政治勢力に勢いを与えている。ルペンとジュポン・エニャンの右翼陣営はこのジレ・ジョーヌ運動を最も支持している。さらにメランション率いる極左政党「フランス不服従」でも高い支持率を示している。社会階層別の違いに加えて注目すべきは地理的な特徴である。時速80km制限の新たな交通規制に対して田園農村部の住民の57%はこの運動を支持している。市町村別にみるとジレ・ジョーヌ運動の起こった700の市町村の77%は人口が2万人以下であった。5万人以上の都市では8%しか支持されていないことがこれを物語っている。

ジレ・ジョーヌの国際的波紋

 フランスのジレ・ジョーヌは南イタリアに大きな政治勢力を持つM5S運動に近いともいわれている。すなわち,イタリアの財政赤字を1.8%から2.4%へと敢えて拡大させる理由は,M5Sと同盟の連合政権はこの財政赤字の数字を最も恵まれない層の市民の所得を補填するのに必要な財政水準と位置付けたというのである。ジレ・ジョーヌがイタリアのベッペ・グリオ(Beppe Grillo)主導のM5S運動に似た部分としては「アンチ・システム」と呼ばれる既存の政党政治の枠組みを超えている点である。ジレ・ジョーヌも所得税だけでなく,最低所得,年金給付の増額を訴えてきた。「バファンキュロ」("Vaffanculo Day"(ou "Journée-va-te-faire-foutre"))と呼ぶ古い政治勢力に対抗するために,イタリアの国会議席の4分の1を占める第1政党で32.5%占めるリーグ同盟と連合政権を組んだのもそのためである。

 このジレ・ジョーヌ運動は近隣の欧州諸国,カナダ,中東アフリカなどの国々にも広がる影響を与え始めている。あるいは全く逆に英国のようなEU離脱国民投票や,イタリアのような左右ポピュリスト政党の連合政権獲得,米国のトランプ共和党右派の大統領誕生などに匹敵する動きが,フランスでは既存のルペンの極右やメランションの極左がマクロンの中道政党に先を越されたためにそのどちらにもまだ属さないとされるジレ・ジョーヌ運動がフランスの全国的な動きになっているのではないかとも言われている。フランスの極右極左政党は2019年5月23〜26日の欧州議会選挙や2020年の市町村選挙を睨んでまだ政党色を鮮明にしていないジレ・ジョーヌに秋波を送っている。米国ではトランプが石炭地帯の西バージニア州,英国ではBREXIT賛成が70%以上にもなったのは旧石炭産業地帯のヨークシャー地方であった。すべての現代の先進民主主義国家ではこの複雑な挑戦に遭遇している。

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