世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1282

米軍は国内地上戦で自衛隊と一緒に戦ってくれない?

市川 周

(白馬会議運営委員会 事務局代表)

2019.02.18

 「西のダボス,東の白馬」の遠大な志をもって2008年に創設された白馬会議(会場・長野県白馬村)が11年目を迎え,「大丈夫か?日本のイノベーション!」をテーマに昨年11月下旬に開催された。

 果たして新元号の日本に「新しい時代」は始まるのか? どうもその勢いに欠ける。それは戦後発展の行き詰まりなのか,平成の疲れなのか。この国には従来の発想や仕組みを突ききる新たなイノベーションが必要だ。こんな問題意識で始まった平成最後の白馬会議は過去10回のいずれに比べても,正直ある種,悲壮感のようなものが漂っていた。それは小手先の技術革新談義ではすまない日本の根本的なイノベーションについて議論することになるなという予感が参加者の中にあったからかもしれない。

 第1セッションの基調報告は菊澤研宗氏(慶応義塾大学教授)。イノベーションの源泉であり,現場であるべき日本の組織がおかしい。立て続けに発覚する大手企業を中心とした不祥事の渦は霞が関・永田町を巻き込み,スポーツ団体,地方金融等,様々な領域の組織に波及し,そこには“忖度・改竄・隠蔽”の三重音が聞こえて来る。その原因を菊澤氏は組織の中の日本人が「人間関係上で発生する見えないコスト」(取引コスト)に妥協し続けているからだとし,その不条理を突き破るには自己の価値判断力しかないと断じた。

 第2セッションの基調報告は小黒一正氏(法政大学教授)。日本のイノベーションの背骨とも言える国家財政が未曽有な危機状況にあることについてもう諦めたのか,声高に警告を発する経済学者は少なくなった。小黒氏は別格だ。日本は150年前の明治維新から約80年後に1945年の敗戦を迎えたが,そこから80年後の2025年,このままいけば財政破綻という“第二の敗戦”を迎えざるを得ないとし,国家財政の現状を「ステージ4のガン患者」と見立てる。このまま無策でいけば債務残高はGDPの4倍に達するのは必至で,医療保険給付にも年金同様のマクロ経済スライドを導入するぐらいの腹をくくれと言い切る。

 第3セッションの基調報告は鶴岡秀志氏(信州大学特任教授)。30年前中国の10倍あった日本の研究開発費は2015年実績で17兆円と中国の42兆円に大きく水をあけられ,「3年後に実用化技術を目指す……」という新聞報道の99%は実現されず,現場若手研究者の8割が日本の科学技術競争力は低下したと感じている。鶴岡氏は“技術劣国化”の敗因を挙げたら,「ドイツ礼賛」「メディアの理解不足」「デュアルユース(軍・民生両用)嫌い」「AI過信」「前例がない主義」等々,切りがないとしながら,基本はアイデアがあってクレージーな人たちを支える日本の大学の工学部とエンジニアリングの再興だと訴えた。

 第4セッションの基調報告は矢野義昭氏(東京工業大学客員講師・元陸将補)。白馬会議にタブーはないが,初めて真正面から軍事を論じた。自衛隊とは何か? 言うまでもなく,日本国民を軍事的災害(外国軍の侵略)と大規模自然災害から守る存在であるが,自衛隊の「防衛力」はこの国を守るのに十分なものなのか? そのイノベーションを問うた。矢野氏は米軍の有事来援には1ヶ月半かかる。だが彼らはやって来ても国内地上戦で自衛隊と一緒に戦ってはくれない。日本人だけでやるしかないと断言。しかし,「だから日本には自衛隊があるんだ」という声は会場から不思議に聞こえて来なかった。

 クロージングは小島明氏(政策研究大学院大学理事)。小島氏の現状批判はいつも手厳しい。平成の30年間,日本人の中に本当の危機感は生まれなかった。あるのは悲観主義を口実とした敗北主義。だから危機への対応は弥縫的であり,とりあえずは多少改善するが中途半端で満足して,再び次の危機に出くわし同じことを繰り返すという「偽りの夜明け」の30年間であった。危機に真正面から向かう日本人の勇気は自分の可能性や力を再確認することからしか出てこない。そのためには凹面鏡に映す自信過剰でもなく,凸面鏡に映す自己矮小でもない。等身大の自分を平らに磨き上げた鏡に映すことだというドラッカーの忠告を披露してくれた。

 第11回白馬会議報告書は白馬会議ウェブサイトに掲載。

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