世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1218
世界経済評論IMPACT No.1218

Brexitで問われる英国大学の留学生依存体質

小原篤次

(長崎県立大学 准教授)

2018.12.10

 3月までロンドンに滞在している。東洋アフリカ研究学院(SOAS)とロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)という中心街の大学図書館を利用している。SOASは大英博物館,LSEはミュージカルの劇場街に近い。公開セミナーを開くと,かなり専門的なテーマでも他大学の学生や一般市民も集まってくる。とくに,EUやBrexsit関連のセミナーは,うっかり遅刻すると入場を断られる盛況ぶりだ。

 英国が受け入れる留学生数は米国の3分の1程度であるが,学生数に占める留学生割合では米国を超す。さらに英国の大学授業料は世界最高水準にあるものの,英国を含むEUとそれ以外を分け,EU以外から来る学生の授業料を高めに設定している。留学生の割合は,学部より修士課程,修士より博士課程で高まる傾向がある。つまり最高水準の研究は留学生に依存していることになる。Brexsit後の不透明さは大学の留学生受け入れにも影響するという指摘が出ている。

21世紀に増大した世界の留学生

 OECD のEducation at a Glance(2009・2018年版),ユネスコ(http://data.uis.unesco.org)によると,1980年に100万人だった世界の留学生は2000年,200万人を超え,2016年には500万人に達している。2000年から2016年までは,年間平均5.6%の成長率だった。低成長の日本から見ると,ものすごい成長市場に映る。

 中国,インドのほか,ベトナム,カザフスタン,サウジアラビア,ナイジェリアなどアジア・アフリカからの留学生の増加のほか,フランスやイタリアなどEU域内の留学生の増加が支えている。2016年,中国が全留学生に占める割合は17%,インドは6%で,ドイツが2%である。

 なお,EU域内の「人の移動の自由」は1995年以降,対象国は段階的に広がってきた。

 留学生の受け入れ国としては2016年,米国,英国,豪州,フランス,ドイツ,ロシア,カナダ,日本,中国の順である。世界の留学生受け入れに占める割合は米国が17%,英国6%,豪州2%だ。

大学院の留学生比率は高い

 他方,各国の大学・大学院生に占める留学生の割合は,英国が学部14%,修士課程36%,博士課程43%となっている。米国はそれぞれ4%,10%,40%である。豪州では修士課程の割合が46%と高い。

 Education at a Glance(2018年版)によると,国公立(Public)の大学授業料は2015年度,イングランド1万1796ドルで米国,チリ,日本を上回って世界一である。日本のほぼ2倍にあたる。この統計がイングランドとしたのは,英国は地域によって大学授業料が異なるためである。スコッドランドでは,スコッドランドの学生,EU出身の学生とともに無償である。

 「人の移動の自由」で,EUからの留学生は英国に留学しても,ビザ取得の必要がなかった。授業料区分のほか,EUの学生は英国の学生同様,英国の奨学金や教育ローンにも応募できる。このように費用面でも「障壁」を設けず,EU域内で自由な移動の制度を保証してきた。

 Brexit後も2020年末まではこの方針を継続することを確認している。ただし,2019年3月30日から2020年末までに英国に到着すると登録が必要になった。Brexit移行期間で,小さいかもしれないが,ひとつ「障壁」ができたことになる。

EU以外の学生授業料で財源を補うシステム

 学生数はLSEで1万1960人,オックスフォード大学で2万3975人,両大学とも学部と大学院の学生数が1対1である。留学生比率はLSEが,学部53%,大学院79%,オックスフォード大学は,それぞれ21%と43%である。両大学の英国およぶEU学生に対する授業料は変わらない。2019年度で年間9250ポンド。これに対してLSEの場合,英国・EU以外の学生授業料は1万9920ポンドと2倍以上になっている。6年前の2013年度と比べると,英国・EUの学生授業料が8.8%,それ以外は26.3%,それぞれ値上がりしている。

 さらに,理系があるオックスフォード大学の場合,英国・EU以外の学生授業料は2万4750ポンドから3万2715ドルと幅があり,社会科学中心のLSEより跳ね上がる。逆にSOASはLSEより若干,低い授業料となっている。

 欧州以外の留学生からの収入の寄与度は大きい。留学生の内訳は,国別では,LSEが,中国(香港とマカオを含める)が1708人で留学生の21%を占め,米国719人(9%)となっている。オックスフォード大学の留学生は,米国が1572人(15%),中国(同)が1299人(13%)と米中が逆転する。

 EU学生の割合は,有名大学,ロンドンの大学,スコットランドの大学で,比較的高いと報じられている。

 Brexitに伴うビザや授業料などの問題は政府に委ねられる。英国の各大学ができることは,EU以外の留学生を受け入れる努力だろう。インドは米国志向のため,当面は,米国との関係がきしむ中国人の獲得のほか,アフリカ,中東,中央アジアの開拓が必要となる。つまり,新興国の富裕層の子弟頼みと言えそうだ。

 なお,文部科学省によると,OECDやユネスコに準じた日本の留学生は2004年をピークに減少し2015年では5万4676人とピーク時から3万人近く減少。だが,大学が派遣する交換留学生(ユネスコなどの国際統計には含まれない)は増加傾向にあり,2016年度で9万人を超えている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1218.html)

関連記事

小原篤次

最新のコラム