世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.1173
世界経済評論IMPACT No.1173

GAFAとB2Bプラットフォームの独占:日本に対抗策はあるのか

古川純子

(聖心女子大学 教授)

2018.10.08

 タイ98%,インドネシア96%,イラン97%,フランス87%,デンマーク93% ナイジェリア93%,ブラジル94%,日本91%…。これは,何の数字だろうか。各国内でGoogleがPCの検索エンジンに用いられている割合である。スマートフォンなどのモバイル端末でGoogleが検索エンジンに使われているシェアはさらに高く,主要40ヵ国のうち36ヵ国で90%を超えている。Googleのシェアが相対的に低い国は,中国,韓国,ロシアである。Googleを締めだした中国では,バイドゥ(57%)をShenma(36%)が追っており,韓国ではGoogle(58%)にNaver(40%)が迫る。ロシアではYandex(44%)がGoogle(55%)を追っている(中韓露はモバイルでのシェア)。

 検索エンジンに関するGoogleの世界的地位は今のところ圧倒的である。意図をもってGoogleに対抗する対策をもたない国では,寡占,もしくは限りなく独占に近い一人勝ちが実現している。シンプルな窓が的確に答えてくれるため,人々が毎日何かを打ち込み,もしくは囁くうちに,プラットフォーム独占はここまで進んだ。Googleは,我々のネット上の行動が残すデータについて数百項目を摂取して分析し,ターゲット広告とビジネスの向上に日々利用している。こちらの行動を読みサービスとして活用している様が確実に進歩していることを,ときにはありがた迷惑と感じながら,筆者も利用している。

 最近ではFacebookユーザーの個人データが第三者に流れたとスキャンダルになったが,Facebookのビジネスモデルもターゲット広告にあり,ユーザーの行動を分析し,新しいサービスやターゲット広告に用いることはすでに仕様の一部である。データの提供にある程度まで合意しなければ,サービスそのものを使用できないしくみにもなっている。顧客データを舐め尽くすことでB2C(Business to Consumer)のプラットフォーマーは大きな利益を上げている。EUは2018年5月,一般データ保護規則(GDPR)を施行し,個人データのEEA域外持ちだしに制限を加えることにした。優勢なプラットフォーム独占企業がEUに無いことも,その政策からは窺える。

 しかしB2Cより真剣にならざるを得ないのは,いま世界的に導入が加速しているIoTであり,B2B(Business to Business)やM2M(Machine to Machine)が主流になったときのプラットフォーム独占である。IoTの時代のプラットフォーム独占は,経済活動の主要なデータがすべてプラットフォーム独占企業に流れ込み,経済的利益の帰趨を制することになりかねない。

 大量のデータを取り扱う企業は,クラウドを用いることになる。充分な記憶容量やセキュリティーなどを自前で最善・最新状態に完備していくよりも,クラウドを利用する方がメリットも多い。クラウドもプラットフォームのひとつである。

 クラウド・コンピューティングとは,超巨大な1台のコンピュータとみなせるサーバー群の処理能力の一部を,従量課金制のサービスとして賃貸するシステムである。サーバーがどこにあるか分からないという意味で「雲」の中をイメージするCloudという用語が使われているが,サーバーはリアルなコンピュータである。サーバーが置かれている土地・建物,サーバー,それを動かす電力などのインフラや,OS,セキュリティーなどのミドルウェアもクラウド側が提供し,ソフトウェアの配信やデータ処理サービスまで行う場合もある。クラウドの利用形態には,ユーザーがどこまでをクラウド上のサービスで賄うかによって,IaaS (Infrastructure as a Service),PaaS (Platform as a Service),SaaS (Software as a Service) などがある。ちなみにGmailはSaaSである。デザイン系の有力ソフトウェアであるイラストレーターはSaaSに移行したため,フリーのデザイナーの友人は商売道具のソフトウェアを買い取ってしまうことができず,毎月ソフトウェアに課金されることに悲鳴をあげている。

 さて,IoTのビッグデータ処理に関係が深いIaaS,PaaS,Hosted Private Cloud(サーバーの一部を特定企業占有として貸し出す)の合計で,世界クラウド市場は2018年第1四半期に前年同期比51%成長した(Synergy Research Group 調べ)。需要不足の世界経済のなかで,これほど伸びている分野も少ない。クラウド供給者の世界シェアを見ると,Amazon(サービス名AWS)が33%,Microsoft(Azure)13%,IBM 8%,Google 6%,Alibaba 4%である。Amazonは,全世界規模のクリスマス商戦でもサーバーがダウンしないほど十分な設備を保有しており,クラウド供給者としても盤石な基盤を整えて51%の急成長市場の中でもそのシェアを変えていない。メガバンクで資産総額トップの三菱UFJ銀行もAmazonのクラウドを使っている。その後に続くNext10の中に,オラクル,テンセント,ラックスペースなどに混ざってNTTデータや富士通が善戦しているが,10社合計でも15%程度のシェアである。IoTに用いるクラウド世界市場のすでに65%が,アメリカと,これを追い上げる中国の上記5社によって占められている。クラウド世界市場における日本のプレゼンスは弱く小さい。これはどういうことを意味するのか。

 クラウドは,データが流れ込むノードとしてIoT時代に最も付加価値の高い地位を占める。その他のエッジ(端末)は,サービスを向上させるためにクラウドを有料で利用させてもらうユーザーに過ぎない。最も付加価値の高い部分をアメリカと中国に明け渡し,現行では基本的にデータを利用されるままになるという立場に日本は後退しつつある。いくら特定のデバイスに強みを持つからと言って,IoTのネットワークに部品や機材という「モノ」を供給するだけでは,世界の潮流に浮いているに過ぎない。周回遅れで日本政府は焦り始めているが,日本は知識経済の時代に打って出る「気概」において,完全に出遅れたように見える。市場は年率51%で伸びており,いくらでも資金調達ができる金融政策環境の中にあってなおこの現状である。バブル崩壊から30年。ビジョンを示せないことが内向きになっていく日本の病であったと筆者は思う。「あの時が最盛期だった」とつぶやくだけではなく,明確な将来展望を描くことが急務なのである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article1173.html)

関連記事

古川純子

最新のコラム