世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2137
世界経済評論IMPACT No.2137

プラットフォーム独占への国家の挑戦:GAFAをめぐる訴訟

古川純子

(聖心女子大学 教授)

2021.04.26

 GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)への風当たりはアメリカ国内でも強くなっている。主だったプラットフォーム企業を持たないEU主要国は,欧州委員会による一般データ保護規則(GDPR:General Data Protection Regulation)を導入したり,OECDがデジタル課税の国際的ルールをまとめきれない中でしびれを切らした国々が独自にデジタルサービス課税をしたりとGAFAに対して厳しい姿勢で臨んできたが,アメリカ政府はどちらかというと擁護に回っていた。

 しかし2020年10月20日,アメリカ司法省はGoogleを反トラスト法違反で提訴し,同年12月16日にテキサス州など10州が,また17日にはコロラド州など38の州・準州・特別区が反トラスト法違反で提訴し,合計3件の訴訟がGoogleに対して起こされている。Facebookに対しても,2020年12月9日連邦取引委員会(FTC)と,ニューヨーク州など48州・準州・特別区の司法長官が,それぞれにFacebookを反トラスト法違反で提訴した。

 ディーナ・スリニバサン(Dina Srinivasan)が,FacebookとGoogleの反トラスト法行為に関してインサイダーとして告発した論文は,それぞれBerkeley Business Law Review(2019)とStanford Technology Law Review(2020)に掲載された。現実の告訴内容はこの論文で糾弾された事実と酷似している。2020年7月には,下院司法委員会の反トラスト・商業・行政法小委員会でGAFAに対する公聴会が開かれ,追及は5時間半に及び,450頁に及ぶ報告書もまとめられた。同委員会委員長デビッド・シシリン(David N. Cicilline,民主党)も現行の反トラスト法をプラットフォーム規制に適合するように改正する必要性を述べていたが,その動きは上院で始まっている。上院では商業・科学・運輸委員会が公聴会を開き,上院司法委員会の競争政策・反トラスト・消費者権利小委員会委員長エイミー・クロブシャー上院議員(Amy J. Klobuchar,民主党)が,2021年2月「反トラスト法執行改革法」を提案した。時価総額50憶ドル以上,市場シェア50%を超えるプラットフォーム企業が競合ライバル企業を買収するときには,将来的に反競争的でないことを合併当事者が証明しなければならない。今まで曖昧だった,競合相手を不利な状況に陥れる反トラスト行為も射程に入る。また同法により司法省とFTCに3億ドルの追加予算が充てられる。

 今回提訴されていないAmazonとAppleが問題の対象になっていないのではない。目下,FTCはアマゾンの自社通販サイトでの取引慣行を調査している。たとえばAmazonはマーケットプレイスに出店している事業者の売り上げデータを流用して売れ筋商品を分析し,自社の販売品目の選定に利用していることが問題視されている。また,司法省はAppleのアプリ配信市場の排他性について調査中である。

 共和党は,Facebookとトランプ政権との確執に見た通り,発信される情報についてのファクトチェックなど,プラットフォーム企業の免責を規定した「通信品位法230条」に関連する検閲を問題視してきた。一方民主党は,Facebookが写真提供を特徴とするSNSのInstagramが社員数14人の萌芽的段階で買収し,新興ライバル企業潰しを行ったとして,InstagramやチャットアプリであるWhatsAppの売却を裁判所に求めている。このように民主党と共和党はGAFA規制に関してスタンスに差があったが,上で述べた反トラスト法執行改革法には共和党にも賛同者がいるし,2021年に入ってFacebookに対する2本の訴訟は一本化されることになった。提訴内容が似ているだけでなく,超党派で足並みを揃えられる可能性も高まる。

 しかし,そもそもこの問題は会社分割や事業譲渡で解決するのかという疑念が筆者には浮かぶ。「消費者が選択の範囲を狭められている」「プライバシーの保護を犠牲にして代償を支払わされている」として,消費者保護を最終目標とする反トラスト法に基づく訴えは,「消費者のための」サービスを独占強化で展開してきたGAFAと,その無料のサービスを謳歌している一般利用者を前に,少々座りが悪い。

 アメリカでのICT関連の主な訴訟は,1969年のIBMに対する反トラスト法訴訟(13年後の1982年,市場情勢の変化もあり司法省が訴訟取り下げ),1974年の連邦通信委員会によるAT&T提訴(解決まで8年,1982年に市内通信と長距離通信の会社分割に合意。引き換えに1956年同意審決を解かれ,AT&Tも真の狙いだったコンピュータ分野に進出が可能に),1998年の司法省と19州の司法長官によるMicrosoftの反トラスト法違反の訴訟(MicrosoftのOSであるWindowsにExplorerなどのアプリケーションソフトを抱き合わせ販売することで参入を阻止する行動に関して係争13年,2011年に和解)があるが,今回のGAFAに対する反トラスト法訴訟は,あれから20数年ぶりの巨大訴訟である。先の事例ではAT&Tを除き,会社分割には至っていない。今回も長い訴訟になるだろうし,司法省ほか原告側が勝てるかどうかは未知である。たとえば,今回提訴したFTCはFacebookがInstagramを買収した当時の審査では認可をしたのだから,FacebookのCEOザッカーバーグが噛みつくのも無理はない。

 この問題の難しさは,人によって,プラットフォーム独占の何が問題なのか,また何が解決策なのかについて意見がまだ統一されていないことである。会社分割,SNS相互の通信を可能にする公開性,プラットフォームの公共管理など多様な意見が提案されている。Google,Facebook,Amazon,Appleは,ビジネスモデルの違いから反トラスト法によって失うものがそれぞれに異なる。となると,争点が錯綜する懸念や,原告と被告の間で合従連衡が生じる可能性もあるだろう。

 さらに言えば,プラットフォーム独占に関してより問題視されるべきは,第1に,データの独占およびその二次利用と運用,つまり企業間共有や政府によるプロファイリングなど,パーソナル・データとビッグデータは誰のものか,またそれをどう扱うのかをめぐる問題,第2に,多額の補助金を受け取り,一方でタックスヘイブンに本社機能を移すことで法人税を免れるという租税国家を危機に追いやるただ乗り問題である。また最近ではアマゾンが労働組合の成立を組織的に妨害した疑いも浮上している。こうした問題は反トラスト法だけでは解決しない。

 かつて,自らは石油を一滴も掘らないまま,同業中小企業を次々に買収して一時はアメリカ石油市場の90%を独占したジョン・ロックフェラーの娘が「父は法を犯していないが,父が行った行為によって多くの法律ができた」と語ったことがある。Tシャツ姿で起業した持たざるGAFAの創業者たちは,法律も規制もないホッブズ的「自然状態」のサイバー空間で,自らのアイデアを社会に実装し,21世紀文明のブースターとして新しい世界を拓いた。自らの発想が社会に受け入れられ,その奔放さがカネに換わる中で,彼らはまたたく間に資本主義の奔流に飲み込まれていった。2021年,バイデン政権の国家経済会議(NEC)のテクノロジー・競争政策担当の大統領特別補佐官には,新たにティム・ウー(Tim Wu)教授が選任された。コロンビア大学ロースクールを辞して政権に加わる彼は「カネにものを言わせて競争を買い取るな」とGAFAに対して強い言論を展開してきた猛者(もさ)である。GAFAが猛スピードで独占を果たしたいま,130年前とは異なる秩序の構築が必要であろう。プラットフォーム独占は,古い独占の性質を帯びつつも,新しい現象である。新しい酒は新しい革袋に盛らなくてならない。稿を改めて考察を続けたい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2137.html)

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