世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.922
世界経済評論IMPACT No.922

ミャンマーのオフィス不足問題と外資の参入

川島 哲

(金沢星稜大学 教授)

2017.10.02

 ミャンマーのオフィス不足問題について取り上げてみたい。

 不動産においては,ホテル,ビル不足が恒常化し今後の供給がのぞまれる。

 ヤンゴンでは,オフィス物件が限定されており,駐在員事務所設立需要が急速拡大しているなか,完全な売り手市場になっている。

 需要が拡大の一途にあることにより,単価改定を頻繁に実施したいと考えるオーナーの中には,6か月を超える契約を認めない例もあり,オフィス維持自体が不安定である。

 2012年以降の契約更改の際には,3倍近い単価改定を飲まざるを得なかった日系企業も存在している。

 では法制度においていかなる現状となっているか。

 ミャンマーでは,不動産譲渡制限法により外国人または外資系企業による不動産所有は厳しく制限され,1年を超えて賃借することができない。旧外国投資法の適用を受けた場合は,これを例外扱いにし,外資系企業も最長50年間の土地の貸借が認められた(10年間の延長は2回まで可能で,その場合は計70年間となる)。このため,製造業をはじめ長期間の土地や建物の貸借が必要な企業は,ミャンマー投資委員会(MIC)から旧外国投資法に基づき別途,認可を受けることが必須だった。MICから投資認可が得られれば,土地の長期使用と税制優遇措置を自動的に受けられることになっていたが,2016年10月に成立したミャンマー投資法の第37条では,MICからの投資認可とは別に,土地や税制優遇措置を受けるために是認の申請を行わなければならないと定めている(注1)。

 現在,ヤンゴンの外資系オフィスビルの新規顧客に対しての単価は,1平米あたり月80〜90USドルに達しており,東京都港区の六本木・赤坂・青山エリアと遜色ない相場となっている。

 しかし,ローカルのオフィスビルは,自家発電機によるバックアップ体制が十分でないところも多くみられる。安定的な事務所運営は期待できない状況にある。それに加え,自家発電機を用意し一軒家で事務所を構えようにも,借地料は同様に高騰しているため選択肢とはなりえない。

 こういったなか,KDDIは2013年4月からレンタルオフィス全25室を開業した。スターツも同月からレンタルオフィス全30室を開業している。事務所設立の需要にこたえようというものだ。

 こうした需給悪化のなか,ホテルにおいては新設ラッシュである。

 ヤンゴンにおいては,ヒルトン,シャングリラ,ペニンシュラ等の外資系5つ星級のホテルが開業計画中である。首都ネピドーにおいては,2014年10月にケンビンスキーが開業し,同月にヒルトンも地元ホテルから運営権を継承して開業した(注2)。

 これらオフィスを中心とした不動産問題はミャンマーに限った話ではない。

 今後のひとつの兆候を表している。

 読売新聞(2017年8月25日)の報道では,ASEANの不動産市場には,日本企業が現地企業と連携して相次いで参入している。例えば,隣国タイでは阪急不動産や野村不動産が進出し,ミャンマーでも2020年を目標に京王電鉄やフジタなどが不動産市場への進出を予定している。

 今後は,オフィス不足による供給不足に対処するのは日本企業が中心となってくるのではないか。

 ミャンマーでは,新会社法について現在議論されており,次の議会で承認される見込みである。現状では1株でも所有していれば外資とみなされている。新会社法では,35%以内の株式保有なら外資であっても不動産や貿易が可能(35%ルール)となる。新会社法のもとでは,企業は単一の株主と経営者のもと設立することが可能である。企業の登録要件も明確に定義される予定で,企業と取引を行う関係者やその内容についてもしっかりと組み込まれる見込みである(注3)。

 ASEANへの進出は,日本国内の少子化による先細りを補填する意味もある。

 もちろんリスクもある。それは第一に,政治体制や治安面についてである。

 第二に,海外マネーが投資目的で不動産を購入することである。

 スーチー(Aung San Suu Kyi)は憲法改正を目標としているため,軍の協力が欠かせず,ジレンマがある。

 しかし,少なくとも日本への志向性を明確にすることで日本企業が動きやすくなる。

 これらを明確にすべきである。

 今後注視していきたい。

[注]
  • (1)ジェトロ[2017.5.31],JETRO「世界のビジネスニュース 通商弘報」2017年5月31日,https://www.jetro.go.jp/biznews/2017/05/7180eb50183649c6.html
  • (2)ジェトロヤンゴン[2017],日本貿易振興機構(JETRO)ヤンゴン事務所「ミャンマーのビジネス・投資環境(2017年4月)」)。
  • (3)後藤洋平[2017],『情報センサー』2017年4月号,JBS,https://www.shinnihon.or.jp/shinnihon-library/publications/issue/info-sensor/2017-04-07.html
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article922.html)

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