世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.904

トランプ政権とASEAN:第50回AMM共同コミュニケに見る不安と期待

大庭三枝

(東京理科大学 教授)

2017.08.28

 8月初旬,ASEAN閣僚会議(外相級)を始めとする関連諸会議が開催された。今年は,ASEANが設立されて50年目ということもあり,設立記念日である8月7日には記念式典も合わせて開催された。

 ところで,ASEANの「年中行事」である首脳会議や閣僚会議が開催されるたび,南シナ海問題への対応にばかり関心が集中しがちである。しかしASEANは政治安全保障,経済,社会文化と幅広い協力を進めており,また東南アジアおよびそれを含む広域の東アジア秩序の維持の観点から,アメリカ,日本,中国などの主要な域外国との関係強化に努めてきた。南シナ海問題はAESANの将来にとって大事だが,ASEANの活動はそれにとどまるものではない。ASEANの幅広い活動に関する進捗状況や内外の諸問題に対するASEANのスタンスを見るのに重要なのが,首脳会議で採択される議長声明や閣僚会議で採択される共同コミュニケである。今回開催された第50回ASEAN閣僚会議の共同コミュニケも様々な内容を含んでいたが,特に本稿で注目したいのが,アメリカのトランプ政権とその対外政策がもたらす影響に関してコミュニケが言及している箇所である。

 トランプ政権は重要なブレーンが次々と辞任するなどの混乱に見舞われ,その方向性自体が大きく揺れている。日米同盟の重要性の確認などの従来のアメリカの伝統的なアジア政策への回帰も見られるとされるが,いまだにトランプ政権のアジア政策に関するグランド・ピクチャーは示されていない。トランプ政権下でも航行の自由作戦が敢行され,南シナ海に関する同政権のコミットメントの意思についてはある程度確認されたと言えるものの,その対東南アジア政策にはまだ不透明が漂っている。しかしながらアメリカはASEAN諸国にとっては無視できない存在であり,トランプ政権の対外政策による国際社会のトレンドについても無関心ではいられない。

 今回の共同コミュニケにおけるアメリカに関する言及の中で特に注目されるのが,今年4月にペンス副大統領がジャカルタのASEAN事務局を訪問し,ASEAN事務局長とASEAN常駐代表委員会のメンバーと会談したことについて触れた箇所である(パラグラフ157)。これはアメリカとASEANとの戦略パートナーシップの重要性の証左とされた。さらに,ペンス副大統領が明らかにした,今年11月に開催予定の第5回米ASEAN首脳会議と第12回東アジアサミット(EAS),さらに同時期にベトナムで開催される第25回APEC首脳会議にトランプ大統領自身が参加するという意向を歓迎していることが明記されている。トランプ大統領がこうした地域のマルチの枠組みにどこまで関心があるのか,そもそもその存在と重要性をどこまで認識しているのか極めて不透明とされていた中で,このペンス副大統領の発言がASEAN諸国に一定の安堵感を与えたことがうかがえる。

 他方,トランプ政権及びその外交政策の影響についてASEAN諸国が共通して抱いている懸念が暗に示されている箇所がある。それは,保護主義が蔓延しつつある状況である。この状況に,アメリカのトランプ政権のTPP離脱などの保護主義的政策が大きな影響をもたらしていることは疑いない。

 コミュニケにおいて,ASEANは経済不振と保護主義に向かう潮流のなかで,経済統合に向けてのASEANの「揺るぎないunwavering」コミットメントを謳い,ASEANを「開かれた地域主義」のグローバル・モデルとしてうち出そうという意思を明確に示した(パラグラフ46)。実は今年4月の第30回ASEAN首脳会議の議長声明の中でも,保護主義を克服するため,RCEPをより高度かつ包括的な協定とすべきであるというASEANとしての意思は示されていた。今回のコミュニケでは,RCEPという各論ではなくAESANの今後の取り組みの原理原則の一つとして保護主義を超える経済統合へのコミットメントの意思が示されていたと言えよう。

 実際にはASEAN諸国間でも経済統合についての足並みが完全に揃っているとは言えない。またTPPがアメリカの離脱によって先行き不透明になったことについても,TPPが参加国に求めていた国内の構造改革から逃れられるという観点から,加盟国の一部から安堵する声も聞こえてくる。しかしながら,そうした状況においても,AESAN諸国がASEANとして保護主義を克服することの重要性を確認していることの意義は大きい。

 11月のASEAN首脳会議をはじめとするASEAN関連諸会議までにトランプ政権がどのような対東南アジア政策を打ち出すか,そしてトランプ大統領がASEAN中心のこの地域のマルチの枠組みが提供する舞台の中でどのようなパフォーマンスを見せるのか,そしてそれらに対してASEANがどのように対応するのか,今後の展開を注視したい。

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