世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.892

アメリカ・トランプ政権下における日本の対外援助のビジョンの再構築に向けて

飯野光浩

(静岡県立大学国際関係学部 講師)

2017.08.07

 2017年1月に発足したトランプ政権は「米国第一主義」を掲げて,経済や外交などあらゆる分野で米国の利益を最優先する姿勢を示している。このことは米国の予算にも表われている。2017年5月24日付けのFinancial Timesによると,外交と海外援助に関する予算を31.7%削減する計画である。このように,他国への関与を低下させていくことは,もちろん,アジア地域にも大きな影響を及ぼしている。アジアでは,中国の著しい経済的・政治的台頭と米国の影響力減少という現状を受けて,日本は難しい立場に置かれている。現在,日本政府は米国と連携して,中国とは競合的な関係にあるが,このような姿勢のままでと良いのかを,対外援助を例にして考える。援助を取り上げるのは,この分野が一番,中国との競合関係がはっきりとした形で表われているからである。日本は2017年の開発協力大綱において,開発協力の目的を「我が国の平和と安全の維持,更なる繁栄の実現,(中略),といった国益の確保に貢献する」と明示しており,これは中国の互恵と共同発展に通じるものがある。また,インフラ援助に関して,低価格を武器にして攻勢をかける中国に対抗するかのように,日本は「質の高いインフラ」援助を提唱して,巻き返しを図っている。

 ここでは,日本の援助のビジョンを政治経済学的アプローチと経済学的アプローチの両方から考察する。その理由は援助とは優れて政治的なものであり,重要な外交手段であるからである。政治経済学的アプローチでは,日本の戦後の援助の歴史をふり返ることで,日本は米ソ冷戦構造の下で,アメリカの作り出す秩序の下で政治外交,経済政策の基軸をアメリカとの関係に設定し,その下に東南アジアとの経済関係を置くことで国家の生存と反映を実現してきたことを明らかにし,その枠内で現在の援助の原型が形作られて,その基本構造がそのまま現在まで続いていることを示す。

 経済学的アプローチと政治経済学的アプローチの両方から,現在の国際政治経済の状況を踏まえて,教育への支援が途上国の持続的な経済開発に死活的に重要であることを明らかにする。経済学的アプローチでは,教育は,途上国が生産性を持続的に向上させて,産業発展と貧困削減を実現していく上で不可欠な人的投資とみなすことができる。つまり,教育には,教育の成果そのものが人々の生活水準を直接向上させるという側面,すなわち教育の普及自体が経済発展の一側面であるという「内在的価値」がある。さらに,教育が生産性や所得の向上を通じて経済成長を促進するという「機能的価値」もあると捉える。

 政治経済学的アプローチでは,教育を覇権のソフト・パワーと捉えることができる。ソフト・パワーとは自国が望む結果を他国も望むようにする力であり,他国を無理矢理に従わせるのではなく,味方につける力である。その視点から見ると,日本の教育支援によって,途上国の人的資本が蓄積されて,所得が増加して,経済が発展すれば,それだけ日本の魅力が増すことになる。それは,日本との国際政治・外交上の距離が近づくことになる。

 最後に,日本が目指す援助のビジョンとして,人的投資としての教育支援重視を掲げるべきであることを示す。中国の台頭を受けて,経済インフラに代表される経済的優位ではなく,ソフト・パワーを通じて,影響力を確保すべきである。中国と経済的優位さというハード・パワーで競争することに固執していては,日本はいつまでたっても影響力を確保できず,漸減していくだけである。中国と競合するのではなく,戦略的な観点からビジョンを差別化して,日本が影響力を確保する重要な岐路に立っているのである。

 

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