世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.775

「環太平洋・大西洋諸国の戦略的パートナーシップ連合」の提唱

安室憲一

(大阪商業大学 教授)

2017.01.09

 今,誰もが予想もしなかったような世界政治・経済の大変動が起きている。主な重要課題を3つ挙げてみよう。第一に,英国の欧州連合からの離脱(Brexit)の後,英国はどうするのか。第二に,現在のTPP協定には参加しないか修正案を提出すると主張している次期大統領のトランプ氏は,そのあとの展開をどうするのか。第三に,ロシアとの平和条約締結および領土返還交渉で行き詰まった安倍首相は,次の展開をどう方向づけるのか,である。これら3つの課題の解決には時間がかかるが,どういう方向で解決に向かうか。つまり,21世紀中葉以降の「国際秩序」をどういうシナリオとロードマップで形成していくべきかを考えてみたい。

 そのシナリオを「環太平洋・大西洋諸国の戦略的パートナー連合」(Pan-Pacific & Atlantic Ocean Countries’ Amalgamation of Strategic Partnership: PPAP)と名づけることにする。

 このPPAPは,TPP協定を母体にするが,再度参加国を募り,彼らの要望に沿う形で条約の柔軟化を図る。まず,構成メンバー国として,新たに英国,アイルランド,アイスランド,メキシコなど,大西洋の海洋国家に参加を要請する。オランダ,ポルトガル,ノルウェー,スウェーデンなども大西洋に面した海洋国家であるが,欧州連合(EU)の主要メンバーなので,この際は域外国としておく。英国が加わることで,旧英連邦が復活することになる。英国が加われば,トランプ氏もPPAPを再考慮せざるを得ないだろう。

 TPP協定は,大半がそのまま履行されるが,米国,英国,日本が抵抗感を持っている「人の移動・移住の自由」に若干の制限を設ける。情報・金融・知的所有権は完全自由化を目指す。もちろん,PPAP加盟国の経済発展段階に合わせて,自由化のロードマップに時間的余裕を認める必要がある。

 農業は,各国にとってナーバスな問題であるので,各国の国土の大きさや生態学的特徴に合わせて,関税上のフレキシビリティーや市場開放の度合いを調整する。これらの調整は,二国間協議ではなく,PPAPの特別委員会で各国の利害を調整する。特別委員会は農業品目自由化の長期計画を立て,ロードマップに従い,各国の農業政策を調節しつつ,市場開放の目標を達成する。

 PPAP加盟国の中で,調和のとれた「国際分業」のネットワークを形成する。そのためには,貿易・技術移転・直接投資・金融のバランスのとれたグローバル化を図る。とくに,発展の遅れた新興国に対しては,経済援助とセットで,技術移転・直接投資を進めていく。このためには,経済開発の「ミレニアル計画」の大幅見直しが必要になるだろう。こうした貿易と直接投資の調整は,全くの自由競争原則ではなくて,「調整された」資源移動が必要であろう。PPAPの特別委員会が参加国の利害を調整しつつ,一定の「ガイドライン」を提示する必要がある。

 「戦略的パートナーシップ」の重要な役割は,情報セキュリティ,知的所有権の共同防衛である。PPAP加盟国が一体となって,情報セキュリティを守り,共同で制裁を加える仕組みが担保されなければならない。こうした「多国間協議」の委員会の常設によって,二国間で起こる「摩擦」を回避し,自由市場体制の発展に寄与することができる。

 この「多国間協議」の結果,大陸に大きな勢力を持ち,統制経済や専制政治を行う国やそのグループに対して,一定のバーゲニングパワーを保持できるだろう。これらの大陸勢力に対しては,自由市場原則ではなく,「ウイン―ウイン」原則で臨む必要がある。つまり,国際ルールに基づく法治ではなく,ケースバイケースで「ギブ・アンド・テイク」で臨む。この交渉は,二国間(バイラテラル)ではなく,「PPAP」全体で交渉する。

 PPAPは,「海洋国家連合」の性格を秘めている。つまり,「海洋からのグローバリゼーション」という特徴を持っている。ユーラシア大陸諸国連合の台頭に対する,戦略的対応である。

 PPAPでは,大陸国の中国やロシアは域外国として想定されている。しかし,ロシアは北極海の開発により,海洋国家として台頭する潜在力がある。日本と協力して,北方四島に「自由貿易経済特区」を開設し,香港やマカオのような「一国二制度」として運用することで,太平洋への進出が可能になる。PPAPを通じたロシアと日米の和解も進むことだろう。北方四島の「一国二制度」のあり方は,次の機会に私見を述べることにしたい。

 PPAPのポイントは,中東,中国,欧州連合が除かれていることである。インドも積極的なメンバーとは考えられていない。他方,東南アジア,中南米,アフリカ諸国は影響圏内に含まれる。政治や経済システムが著しく異なる国々とは「自由貿易協定」を結び,「ウイン―ウイン」原則をベースに交渉すべきだろう。

 20世紀のグローバリゼーションで最大の利益を得た国が,その対価としての「グローバル経済体制」を維持するコスト負担を回避するなら,20世紀型グローバルシステムは崩壊するだろう。それが今起こりつつある現実である。グローバルな経済システム(PPAP)という「公共財」は,その費用を負担する意思を持つ国だけで運営されるべきであろう。

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