世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.735
世界経済評論IMPACT No.735

姉妹都市・友好都市から見る希薄な日印関係

安積敏政

(甲南大学経営学部 教授)

2016.10.17

 姉妹都市・友好都市は世界各国で結ばれている自治体間の交流や提携を示す。英語表記は姉妹都市がSister City,友好都市はFriendship City であり,その用語の使い分けに特別な世界ルールや国内ルールがあるわけではない。「姉妹都市」にすると上下関係の議論が出るので避けるとか,交流範囲が広範であれば「姉妹都市」,限定された場合は「友好都市」とする程度の使い分けである。

 姉妹都市・友好都市締結の背景には,地理的環境や自然環境の類似性,歴史的な交流・つながり,文化遺産が点在する有数の観光地,主力産業の共通性などがある。たとえば,愛知県豊田市と米国ミシガン州のデトロイト市は自動車産業がとりもつ姉妹都市である。また滋賀県長浜市で創業した農機メーカーのヤンマー(旧社名ヤンマーディーゼル)は,その後,兵庫県尼崎市に主力の事業を展開したが両市は,ディーゼルエンジンを発明したルドルフ・ディーゼル博士のゆかりの地であるドイツのバイエルン州アウクスブルク市と1959年に姉妹都市を締結している。長浜,尼崎の両市は今日までの半世紀以上にわたりアウクスブルク市と地道な交流を積み重ねている。

 日本の都道府県,市区,町村による姉妹都市・友好都市締結数は,一般財団法人・自治体国際化協会資料によると,2016年3月現在,1,689件である。その内訳は米国の446件を筆頭に,中国362件,韓国160件,オーストラリア108件と続く。4カ国で1,076件となり全体の64%を占めている。5位以下はカナダ,ブラジル,ドイツ,ロシア,ニュージーランドと続くが,インドとは僅か5件である。

 因みに2007年12月末に戻ると合計1,560件で,その後の増分129件中,韓国が44件,中国が37件を占める。インドとは4件であるので9年間に僅かに1件の増加を見ただけである。その後の尖閣諸島問題をめぐる日中関係,慰安婦問題をめぐる日韓関係の悪化により,両国との増加傾向は止まっている。

 さらに上記1,689件の締結を自治体別に見ると,1位は北海道の122件,2位は兵庫県の74件で,以下,大阪府の71件,東京都の66件,愛知県の66件と続き締結は全国に広がっている。インドと締結している5件は,横浜市・ムンバイ市,岡山県・プネー市,岡山県・ピンブリ・チンチワッド市,三次市(広島県)・ハイデラバード市,福岡県・デリー準州である。インドとは他の国との締結件数と比較すると極端に少なく,このことは自治体間の交流が少なく,日印間の希薄な関係を象徴している。

 以上のように日印間の姉妹・友好都市件数は少ないと言え,日印間の経済交流そのものの歴史は長い。筆者が松下電器(現・パナソニック)を代表して随行員として参加した第30回日印ビジネス協力委員会は,2001年1月31日~2月1日にニューデリー市で開催された。日本側は日本商工会議所が主導し,ホンダの川本信彦相談役(当時・日印経済委員会会長)が団長でソニーの愛甲次郎専務など約20名が参加した。インド側は主要経済団体のFICCI(インド商工会議所連盟)やASSOCHAM(全インド商工会議所連合会)からの多数の出席を得たと記憶している。

 2000年代に入って,BRICsの一翼であるインドの高い経済成長率が顕著になっていくとともに,日本企業のインドへの関心が増大した。自動車,電機など1社1事業拠点からスタートした各社のインド事業は,基幹部品の新たな拠点設置,製販分離による販売部門の強化,事業分野の新たな拡大などにより複数の事業拠点が設立されていった。

 在インド日本大使館ホームページの「二国間関係」各年度資料によると,2009年には,進出企業数627社,事業拠点数1,049拠点と,初めて事業拠点数が1,000カ所を超えた。2013年には,進出企業数が1,072社と,初めて1,000社を超えた。2008年の550社から僅か5年間で倍増したことになる。自動車や電機の分野でコスト削減などのために大手企業が取引先の中堅・中小企業にインド生産を促したことや,化学・製薬といった製造業の新たな進出,そして保険・小売業・サービス業などあらたな非製造業(サービス産業)の進出件数の増加がこの背景にある。2015年には,進出企業数は前年比73社増の1,229社で,事業拠点数は同536拠点増と急増し,4,000拠点を超え4,417拠点となった。進出州は,上位5州がマハラシュトラ州,タミル・ナドゥ州,ハリヤナ州,カルナタカ州,デリー準州である。

 今後は,中国に対して投資先行きの不透明感,投資リスクの増大,人件費の上昇といった点から投資控えが顕著になることから,新興国の中でも高い成長を遂げるインド市場への期待がさらに高まっていくと予想される。製造業・サービス産業の投資分野の拡大や,進出企業規模が中堅・中小企業にまで拡大することから,進出企業数がさらに増え,事業拠点数5,000というレベルに達することが予想される。

 長期にわたって停滞していた民間企業のインド進出が加速化している。インドでのグループ企業の売上高が1兆円規模のスズキやホンダの自動車関連事業が出現している。経済成長が著しい人口12.8億人のインドの名目GDP(2014年)は2兆512億ドルで,すでに日本の4兆6,023億ドルの44%にまで迫っている。

 一方,中国は巨大化した経済力を背景に軍備を増大し海洋権益を拡大する動きを露骨に見せている。「後れてやってきた帝国主義国家,中国」(渡辺利夫・元拓殖大学総長談)の覇権主義の拡大が顕著である。このような動きの中でパラダイムシフトしたアジアでのインドの存在感が増している。

 民間企業の積極的なインド進出の動きに対して,日本の自治体のインドとの姉妹・友好都市が僅かに5件ということは,インドへの極端な関心の低さや親しみの無さを示している。100件レベルの実態のある締結が望まれる。また年間1,000万人を超すインドの海外旅行者数の中で,日本へ来るのは僅か10万人(2015年)というのも両国関係の希薄さを表している。最近,日本政府の中国への危機感からインドと政治・外交などの面での交流は頻繁で積極的である。一連の政治・経済・社会・文化的交流に相乗効果が出る時に,二カ国間関係はさら強固なものになっていく。そのためには,大学が率先してカタリストとしてインドとの学術面での交流を推進することは大切である。さらに草の根レベルとは言え地方自治体レベル,県民・市民レベルのインド交流の拡大には今後,姉妹都市・友好都市の締結は欠かせないものであろう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article735.html)

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