世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4259
世界経済評論IMPACT No.4259

世界秩序と国際関係理論:新帝国主義下における米国第一主義の遷移

鈴木弘隆

(フリーランスエコノミスト・元静岡県立大学 大学院)

2026.03.16

米国第一主義,新型コロナ禍と生活様式の遷移

 2019年から続いた世界的な新型コロナ禍は,国際的リーダーシップの欠如と先進国と途上国の分断,国際主義の機能不全を白日の下に晒した。その結果,自由貿易に基づくリベラル国際秩序は,大国の自国第一主義の台頭する世界秩序へと変貌していった。その背景には,グローバルサプライチェーンの分断をきっかけとした各国の不満の高まりがある。以下では,パンデミックを経て,近年の国際情勢としての新帝国主義の台頭と,アメリカ・ファースト(米国第一主義)の遷移を概観する。

新帝国主義と帝国主義の違い

 新帝国主義時代の危険性に関して,佐藤(2025)は,「帝国主義が生じるには,まず自由競争資本主義から独占資本主義への移行が必要であり,国内市場だけでは捌ききれなくなった商品を,国外市場に輸出する必要が出てくるという経済的側面が一方にある。だが,そうした国外への経済進出を実現するためには,それを後押しする国家の支援が不可欠であり,場合によっては武力による市場解放すら辞さないという暴力容認の態度を伴う。帝国主義が植民地主義と結びつくのは,まさにこの点においてである」としている。

 18世紀後半から19世紀前半にかけて,西洋列強諸国は帝国主義政策を推し進めていった。当初は地球上にまだ植民地化の余地が残されていたため,列強間の対立はある程度抑制されていたが,20世紀初頭には地球上のほぼすべての地域が列強の植民地となり,利害の衝突が避けられないものとなった。こうした利害対立の激化が,第一次世界大戦の引き金となったことは言うまでもない。第一次世界大戦が「帝国主義戦争」と呼ばれるのは,この様な歴史的背景によるものである。

 それでは,帝国主義と現代の新帝国主義との違いは何であろうか。

 最大の違いは,新帝国主義諸国が,かつての帝国主義国家のように植民地を求めないという点にある。20世紀前半とは異なり,現代の帝国主義的な強国が圧倒的な軍事力によって他国を直接的に従属させることは,すでに不可能となっている。そうした行為はただちに国際社会からの激しい批判を浴びるだけでなく,経済的に見ても植民地経営には膨大なコストがかかるため,採算が取れない。 この様な問題点は,植民地を保有する全ての国が抱えていた重大な問題と言える。一方,新帝国主義では,帝国主義的政策が持っていた重大な弱点を巧みに回避し,暴力的な支配に代わって,経済的な利益を優先した支配を目指している。新帝国主義は世界を分割して支配していくのではなく,相互に棲み分けを志向する。現代の帝国主義は植民地を必要としない。したがって,レーニンが主張した「植民地の再分割によって戦争が生じる」という帝国主義モデルは,もはや現代に適用されない。

 新帝国主義下では,グローバリゼーションに対抗する多元化が求められ,経済的にはブロック経済には移行しない。国家を経由した国際関係が続き,インターナショナリゼーションは進展する。従い,経済的理由により大戦は起こらないとされる。帝国主義におけるブロック経済は閉鎖的なためにインターナショナリゼーションを阻害するが,現実にはそうはならず,現代の新帝国主義においてはグローバルサプライチェーンという形で,国際的な関係に基づく貿易は持続する。実際に,新帝国主義体制下では,アメリカとロシア圏での間で貿易関係が継続しており,その関係は何ら問題なく維持されている。

第二次トランプ政権の世界戦略の背景

 佐藤(2025)によれば,現代は,力のある国が力のない国を,政治的・経済的・軍事的に従属させる,新たな「帝国主義の時代」に入っており,この状況下においては第三次世界大戦の勃発リスクが現実味を帯びてくる。こうした危機の時代にあって,アメリカではトランプ2.0の世界戦略として,アングロサクソン(アングロ・アメリカン)的な自由と人権に裏打ちされた民主主義というイデオロギー(価値観)で世界秩序を維持することは困難であり,関係するそれぞれの国も自国の利益に沿って,柔軟な外交交渉を積み重ねていくことが求められている。

 アメリカが推し進めたグローバリゼーションは,アメリカに利益をもたらすどころか,その衰退を招いた。エマニュエル・トッド(2003)は,アメリカの工業製品の貿易赤字に関して「1998年以来,これがアメリカ合衆国に還流させた利益は,アメリカに進出した外国企業がそれぞれの本国に還流させた利潤を下回るのである」と指摘した。

 この問題に最初に気づいたのがトランプ大統領であり,トランプ大統領はこれを克服するために,国民国家を基盤とする新帝国主義的なパワーバランスのシステムへと移行すべく,アメリカの政治・経済の方向を大きく転換させたのである。

 トランプ関税の衝撃に関して,トランプ大統領は,「生産力の有無こそが国力を左右する」という根本的な大問題に気づいた。「生産するよりも消費する国」では,もはや国力を維持できないという現実を,トランプ大統領は,直観的に理解している。

 しかし,長年に渡り「消費大国」としてのスタンスに依拠してきたアメリカが,短期間で「生産大国」へと転換することは極めて困難である。そのためには,現在の経済体制そのものを大きく見直す必要がある。自国の生産力を強化するためには,単なる保護関税だけでは不十分であり,国内産業の育成と同時並行で進めなければならない。

 さらに強調すべきは,新帝国主義にとって,もはや植民地は必要ないという点である。その理由は単純で,資本主義国家(レーニンの言う,かつての帝国主義国家)が,植民地経営は儲からないという事実を知ったからである。ある国家の国民全体を支配するのではなく,その国の富のみを収奪すれば良い。まさにこの支配構造こそが「新帝国主義」と呼ばれる所以である。

日本の対外政策としての「戦略的自律性」と「戦略的不確実性」

 佐々江(2026)によれば,世界は2026年においても引き続き「動乱期」の渦中にある。中東やウクライナにおける紛争は収束の展望を欠き,米国が重視する西半球をめぐる動向など地域情勢が複雑に連鎖しながら緊張を高めている。世界各地で平時と有事の境目がますます曖昧になっており,気球型偵察を含む領空侵犯,重要インフラへのサボタージュ,海底ケーブルの損壊,外国勢力による不当影響工作(FIMI:Foreign Information Manipulation and Interference)等,ハイブリッド攻撃が常態化している。サイバー攻撃の巧妙化,AIを含む先端技術の急激な進歩,サプライチェーンの脆弱性,気候変動の深刻化等,多層的な脅威が同時並行的に顕在化している。米国では2026年後半に中間選挙を控え,国内政治の不確実性が同国の対外政策を揺るがしかねない。「米国第一主義」を唱える声が高まる中,2025年末の米国の「国家安全保障戦略(NSS)」は同盟国に対する優遇的扱いを当然視しないものとなっており,各国が自助努力と主体的対応を求められる時代が到来している。このようなアメリカのNSSは,同盟国である日本にも,自らの「戦略的自律性」及び「戦略的不可欠性」構築し,新たな外交・安全保障の視座を確立することを強く迫っている。

 本来これらの概念は経済安全保障の領域で用いられてきたが,外交・安全保障政策全般においても示唆に富むものだ。すなわち,自らの安全保障上の脅威や経済的威圧に対し,主体的に対処し得る能力を備えること(自律性)と,地域及び国際社会において困難な時に頼るべき相手として存在価値を高めること(不可欠性)の双方が,日本が動乱期を生き抜くための鍵だ。

新帝国主義下での生活様式の鍵は,シュンペーター主義に基づく「生産力」

 我々はパンデミックにより不可逆的な生活様式の転換を強いられた。またトランプ2.0の出現により,賛否両論あるがこれまで岩盤規制となっていた既得権益層の聖域にメスを入れる機会を得た。経済力・文化力も含めた「力による平和」の下で想定しうる今後の世界秩序としてありうる新帝国主義は,日本外交に量子力学を用いて分析すべき「戦略的自律性」と「戦略的不可欠性」という不確実性の下での地経学的対外政策を取らせようとしており,同時に,今般においては,近代経済学を用いて分析すべき企業経営における生産力向上のために,シュンペーター主義に基づく創造的破壊を実践することを可能とした。上述の佐藤は,古典的な新カント主義とマルクス経済学を基盤として世界秩序を分析していたが,この様な新帝国主義やパンデミックがもたらした不確実性下での創造的破壊というパラダイムシフトにおいては,量子力学を用いた量子国際関係理論と,近代経済学に属するシュンペーター主義による分析が比較対象として台頭しうる。今後は,この様な近代経済学と量子国際関係理論が,代替案としてどのように新帝国主義の政治力学を説明しうるか,また,国際社会が古典派と量子派のどちらへと向かっていくのかと言う点にも留意して,国際政治の動向を注視していくべきであろう。

[参考文献]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4259.html)

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