世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
副首都構想に不可欠な国会での熟議と国民的議論
(高崎経済大学 名誉教授・(公社)日本地理学会 元会長)
2026.03.09
1.東京一極集中を固定化する大都市限定の副首都構想
国土構造のあり方や首都機能移転は20世紀を通して議論されてきた国民にとって重要課題である。20世紀末には東京一極集中解決対策としての東京改造政策に地方の知事から批判が高まり,衆参両院で「国会等の移転に関する決議」が1990年に行われた。1994年には議員立法で「国会等の移転に関する法律」が施行され,東京一極集中是正・災害対応力強化・国政全般の改革促進を図るため,「国会等移転調査会」で移転のあり方が議論された。また,1996年から「国会等移転審議会」で移転先や移転のあり方を詳細に検討し1999年12月に国会に報告している。
国土構造や都市研究をしてきた筆者は,専門委員として審議会等で移転論議に10数年関わった。一連の動きは21世紀初頭には新首都建設が始まるとの国民・政財界の期待を高めたが,20世紀末のあだ花となった。バブル経済崩壊後の財政悪化や地価下落による経済環境の悪化,移転賛成を示していた石原慎太郎氏が移転絶対反対を公約に都知事に就任,同じく賛成であった小泉純一郎氏が総理大臣として移転凍結方針を示したことが大きい。
首都機能移転は現代日本の重要課題であるが,自民党と「維新の会」との連立与党合意文書の「副首都構想」には期待できない。自民党内にも大阪ありきの維新案に批判があり,人口200万クラスの大都市から選定で両党間合意したという。しかし,副首都構想の理念・目的・移転機能・東京との関係・審議の進め方などが何ら公表されていない。副首都という限り首都東京と一体で考えることになり,この構想は現状以上に大都市中心の国土構造形成を促し,東京一極集中の固定化・深刻化をもたらすであろう。
2.副首都構想は「国のかたち」を左右する国民的課題
これまでも中央省庁分散移転の試みは難産であり,問題を抱えている。他省庁との日常的調整等が比較的薄い文化庁の京都移転は実現した。しかし,リモートワークでは処理できない業務は多く,世界遺産関係など国会・省庁間調整の多い部署は現在まで東京で執務しており,長官をはじめ幹部は京都-東京を頻繁に往来せざるをえない。
副首都のあり様は現在から将来の「国のかたち」に強力な影響をもたらす。副首都建設には少なくとも東京一極集中是正・災害対応力強化・国政全般の改革の促進効果が求められる。副首都構想実現に費やす労力・経費等とその効果を首都機能移転のそれと比較考量すると,筆者には首都機能移転が優位となる。副首都にしても首都機能移転で構築される新都市にしても,これからの国のかたち,日本の国際的地位向上に貢献する必要がある。
3.不可欠な副首都構想の熟議と透明で公正な選定手続き
農業を基盤とする江戸時代末期まで首都は京都にあった。蒸気機関など機械力による産業革命を迫られた日本は,江戸期までの米作中心の農業社会を工業社会に再構築するため明治維新で社会改革し,首都を東京に移して欧米先進国をモデルに近代化政策を進めた。その結果,日本の伝統的農業文化の中心を京都で育みつつ,東京を鉄とコンクリートの超高層ビルに代表される工業文化社会のモデル都市として日本を経済大国に成長させた。京都が明治以降も首都であったら,広範囲に超高層ビルの建設などで人・金・物・情報の大量集積はできず,結果として京都の伝統文化の保存・育成も,工業社会における経済大国実現もできなかったであろう。
中央集権・縦型社会で成長した東京・日本社会は,20世紀末からの分権・横型社会である知識情報社会では東京に代わる首都機能都市を必要とした。国土構造は,東京を頂点とする階層ネットワーク型を,地域の大小を問わず平等に交流しうる水平ネットワーク型に転換しなければならない。東京は経済的地位を高めるため身軽になって知識情報社会に適した経済首都に再生し,新首都は世界をリードする政治・情報文化都市となることを意味する。東京の地位は国内的には現在も盤石であるが,日本の国際的地位はアジアにおいてすら急速に低下している。21世紀初頭に新首都機能都市を実現させ,知識情報社会に適した国のかたちに転換していれば,日本はもっと豊かな国であったであろうと想像する。
副首都にせよ新首都にせよ土地・交通・災害・水供給・文化形成・国際関係・人口・自然環境,東京との連携のあり方や両都市の同時被災を避ける位置関係など多くの検討事項がある。大阪ありきの副首都構想推進や,巨大与党の数の力で強行することなく,時空間的・俯瞰的視点から透明で公正な選定手続きに基づき国会での熟議と国民的議論を経て結論を導き出して欲しい。特にこれから日本を背負う若い人々が,日本の歴史的・地理的条件や蓄積された知見を踏まえ,あるべき国のかたちの実現に努めることを期待する。
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