世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4239
世界経済評論IMPACT No.4239

変わる日本企業の所有構造

竹之内秀行

(上智大学経済学部 教授)

2026.03.02

 経営学の分野において「企業の所有者」は長く議論されてきたテーマの1つである。最近ではコーポレートガバナンスの議論もあり,再び注目を集めつつある。たとえば,日本におけるファミリー所有企業の割合を聞かれて即答できる人は多くはないだろう。国税庁「会社標本調査(2022年度)」によれば,ファミリー所有企業の割合は日本企業の96.4%にものぼる(注1)。資本金1億円以上の日本企業では58%,資本金100億円以上に限っても48%の日本企業がファミリー企業に該当する。想像よりも高いのではないだろうか。所有構造には,ファミリー所有以外にも,金融機関による所有や取引先企業による所有といった側面もある。

 そこで,本稿では2004年度と2014年度の日系自動車部品メーカーの所有構造の変化を見てみたいと思う。対象は,2004年度時点において日本自動車部品工業会に所属していて,かつ株式上場している企業である。ただし,大企業の一事業として自動車部品を扱っているようなケースは除外した。その結果,最終的な対象企業は130社(2004年度が130社,2014年度が128社)となった。自動車部品メーカーへ焦点をあてることで,ファミリー所有,取引先企業による所有,機関投資家(金融機関)による所有が,どのように変化しているかを捉えることができるだろう。また,所有に関するデータついては,有価証券報告書の大株主欄に記載された情報を用いた。したがって,株主の中でも上位10位までの情報を用いている。それでは,順を追いながら所有構造の変化を見ていこう。

 まず,ファミリー所有企業の割合であるが,2004年度は41%,2014年度は35%がファミリー所有企業であった(注2)。したがって,10年間で6%ほど低下している。次に,取引先企業による所有を見てみよう。ここでは,自動車部品メーカーが対象のため完成車メーカーの所有に注目する。完成車メーカーが所有者となっている自動車部品メーカーは,2004年度が40%だったのに対し,2014年度は44%であった。意外なことに,完成車メーカーが所有者となっている自動車部品メーカーの割合は増加していた。

 最後に,機関投資家の所有についてみてみよう。こちらについては,2004年度と2014年度ともにほぼすべての自動車部品メーカーに機関投資家からの出資が行われていた。そこで,機関投資家を細分化して,外資系の機関投資家と政府系の機関投資家にフォーカスしてみよう。すると,興味深い変化が浮き彫りになってくる。まず,外資系の機関投資家の出資を受ける自動車部品メーカーの割合が47%から61%へ増加していることがわかった。この傾向は政府系の機関投資家も同じであり,2.3%から13%へ増加していた。

 この機関投資家の増加は,2つの点を示唆している。1つは,機関投資家による所有の意味が変化している可能性がある。従来は,日本の銀行や保険会社に代表されるように,機関投資家は資本の供給源として企業の長期的成長を支える役割を担っていた。しかし,外資系の機関投資家の増加は,そうした機関投資家像が変化しており,経営へ関与する機関投資家の姿を示しているかもしれない。もう1つは,非財務的指標を重視する投資家の台頭である。政府系の金融機関による出資は,ソブリンウェルスファンドと呼ばれており,その代表例がノルウェー政府年金基金である。ノルウェー政府年金基金は,「国際的な責任ある企業行動の基準の発展に積極的に貢献する」という方針を掲げている(NBIM, 2021)。すなわち,ESGに代表される非財務的目的をもった所有者の台頭しつつあるのである。こうした変化もまた,企業の意思決定へ少なからぬ影響を及ぼすであろう。

 本稿では,2004年度と2014年度の日系自動車部品メーカーの所有構成に関するデータを見たが,こうした所有構造の変化はとても興味深いものである。さらに,10年後の2024年度のデータを検討することで,所有構造の変化について接近することが可能となるであろう。

※本稿は,高橋意智郎(日本大学教授)との共同研究プロジェクトの成果の一部である。

[注]
  • (1)国税庁(2024)『会社標本調査(2022年度)』,180頁。同調査におけるファミリー企業の定義は,「会社の株主等の上位3株主グループが有する株式数又は出資の金額等の合計が,その法人の発行済株式の総数又は出資の総額等の50%超に相当する法人」である(同書,3頁)。
  • (2)自動車部品メーカーに関するファミリー所有企業の判定については,創業者の姓などの情報に基づいて,有価証券報告書の大株主の欄に創業者の関係者ならびに関連組織の記載があるかどうかによって,判定を行った。したがって,一部の判定には不確かな可能性は残る。
[参考文献]
  • Cuervo-Cazurra, A., Grosman, A., Mol, M. J., and Wood, G., “The impact of ownership on global strategy: Owner diversity and non-financial objectives,” Global Strategy Journal, 15:3-33, 2025.
  • NBIM (Norges Bank Investment Management), Responsible Investment 2021, 2021.
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4239.html)

関連記事

竹之内秀行

最新のコラム

おすすめの本〈 広告 〉