世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4243
世界経済評論IMPACT No.4243

妥結か激突か? 米イラン交渉

若林啓史

(早稲田大学社会科学総合学術院 非常勤講師・京都大学 博士)

2026.03.02

瀬戸際政策

 2026年2月,米イラン交渉はオマーンの仲介により再開した。トランプ大統領は1月末,航空母艦を含む米艦隊のイラン近海配備を明らかにしている。イランの体制転換を公言するトランプ大統領に対し,ハーメネイー指導者は「もちろん,軍艦は危険な兵器であるが,軍艦を海の底に送り届けられる兵器の方が,軍艦より危険である」と米艦隊への報復を予告している。2月23日付の米ニュースサイト「アクシオス」によると,ケイン統合参謀本部議長はトランプ大統領に,イラン攻撃は紛争長期化など大きなリスクを伴う可能性があると助言した。トランプ大統領は,この報道を強く否定している。軍事的圧力を背景とした米イラン交渉の行方は,国際社会の高い関心を集めている。

交渉を巡る相反する解釈

 米イラン交渉の意義には,2つの見方があり得る。2025年の交渉が参考になる。同年4月,トランプ大統領はハーメネイー指導者への書簡で対話開始を提案,オマーンを仲介国として交渉が続いた。ところが,次回会合が予定されていた6月13日,突然,イスラエルがイランを攻撃した。この時は,結果的に見て,アメリカがイランを油断させる道具として,交渉を利用したと言わざるを得ない。今回も類似の意図に基づくのではないかというのが,1つ目の見方である。

 しかし,イランは同じ手段で隙を見せるとは考えにくく,今回は去年と違う真剣な交渉であろうというのが,もう1つの見方となる。本年2月,イランが米艦隊近くにドローンを飛行させた事件は,イランがトランプ政権の意図を見極めるためであったと理解される。仮にアメリカの交渉姿勢が軍事介入の意図を隠す煙幕であるならば,今回のドローン撃墜を巡り,アメリカはイランに対する敵意を露わにするはず,しかし,そうはしなかった。イランとしては,アメリカとの交渉に楽観はできず,アメリカの軍事介入を延期する効果さえあれば,その間に自国の軍事インフラの建て直しが進むと計算し,意味はあると見ているだろう。

陰の主役イスラエル

 米イラン関係の隠れた当事国,イスラエルの動きが重要である。今年1月のイラン国内の暴動に際し,アメリカは爆撃による反体制派支援を計画した。1月14日,ネタニヤフ首相はトランプ大統領に電話し,イランが警告するイスラエルへの報復があった場合,イスラエル側に十分な準備が整っていないため,対イラン攻撃を延期してほしいと要請した。2月11日,トランプ大統領は,ネタニヤフ首相と再度会談したが,イラン問題についての方針は明示されなかった。アメリカとイスラエルは,イランのイスラーム共和体制を破壊するのが共通の目標である。しかし,すぐ着手するのが良いかという点で,1月には両国の判断に違いが存在した。ひと月経過しただけで,イスラエルの防衛能力が劇的に改善するとは考えられず,常識的には,イスラエルはアメリカに対し,現時点での空爆は逆効果と訴えたのではと推測される。しかし,トランプ大統領とネタニヤフ首相のこれまでの決定は,予想を裏切っていた。昨年は,イスラエルがイラン攻撃をアメリカに提示,トランプ大統領は,イランとの交渉中は攻撃を待つようネタニヤフ首相を説得したとの演技が報道され,実際には6月の攻撃の協力を進めていた。

トランプ大統領の真意は?

 最近になって,トランプ政権がイラン問題に手を戻した理由は,ベネズエラやグリーンランドの問題で国際的な批判に直面し,関心をそらすためではなかろうかと想像される。トランプ政権としては,イラン問題で和戦両様の構えを見せ,国際社会が注目すれば,グリーンランドは忘れてくれると期待しているようだ。その後も相互関税に関する米最高裁判決などトランプ政権への逆風が続き,対イラン交渉の操作は国際世論対策の上でも重要である。再開後3回目となる米イラン交渉は2月26日,ジュネーブで開催された。両国の合意には至らず,トランプ大統領は軍事介入の姿勢を崩していない。もはや事態は,交渉内容如何ではなく,トランプ大統領の決断次第である。軍人トップから,イランへの軍事行使に高いリスクが存在すると異例の進言を受ける中,外交決着を優先するのが合理的な判断のはずだが,トランプ大統領に通用するか,どうか?

(2月27日脱稿)

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4243.html)

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