世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4082
世界経済評論IMPACT No.4082

高市政権下でのエネルギー:環境面での大転換へ

武石礼司

(東京国際大学 名誉教授)

2025.11.17

30年に及ぶ低成長からの脱出

 国内投資を行わず,経済成長を目指さない国としての日本の劣化は目を覆うほどの惨状を呈している。金融緩和を続けても,金融部門から国内投資に向かう金額は少なく,海外での運用による利幅稼ぎに走るという状況が続いた。民間企業においても,利益を出している堅調な企業でも,内部留保の積み増しと株主配当,それに役員賞与に費やされてしまい,将来のシーズづくりのための研究開発に取り組む動きは限られてきた。そもそも大手企業が保有していた研究所はバブル後には相次いで廃止されており,斬新な新規商品が生み出される環境もなかった。まして,借入資金で新たなチャレンジを行おうとの動きも限定的であった。

 日本政府においても,将来展望を持った成長戦略が描かれることはなく,老朽化するインフラの更新投資も抑制され,投資と言えば「脱炭素」や「低炭素」を目指した既存エネルギー源の代替施設の増設の火付け役としてのGX資金の提供が行われてきたのみである。

 火力発電設備などの既存設備が停止され,従来供給されてきた燃料の削減が行われ,石炭火力が停止し,太陽光,風力等の発電設備が新たに設置されても,日本全体として見ると,売電による収益を全体として上昇させるものではなく,設備およびエネルギー源が変わったのみであった。そして,電力価格の上昇が生じ,国民の所得が向上したわけではなく,経済成長が促される動きとはならなかった。

老朽化を極める日本の大学の研究施設

 東大とか京大とかでない地方の国立大学を訪問すると,特に顕著に見られるのは工学部の設備の劣化である。「ここで教育をしているのですか」と思わず声を出してしまうほどの設備の老朽化,新規設備の不足が見られ,「研究費はどくらい出ているのですか」と聞いても,国の支援額が日本の中では多い東大等と比べても,地方大学で教員が受け取る金額は少ない。外部の研究費を多く獲得できている一部の教員を除いては,研究発表に出かける旅費すら自らの給与で払うしかないに違いないと思われる状況にある。学生の研究のために費やすことができる費用も明らかに限られているに違いないと予測せざるを得ない。

教育支出の拡大と人材育成への支援の重要性

 再生可能エネルギーの導入支援策は,固定価格買取制度(FIT)の2012年の導入でブームとなり,設置の簡単な太陽光の導入が,破格の購入代金の設定と,設置設備費の即時償却制度の後押しもあって急拡大した。即時償却は,設置初年度の投資額を,当年の経費として計上できるという制度であり,当年の利益と,法人税額の支払いを引き下げることができ,設備を導入した当年度から破格の売電収益を上げることができた。導入初年度に多額の収益が生じると予想された企業にとっては節税策としてもこれ以上ない投資先であった。しかも,FITによる収益は無税とされており,この特典が20年間続くこととなった。企業にとっては,利益の繰り延べプラスαの制度で,一方,家計における負担は,再エネ賦課金として年々積み増された。

 上述した状況に加えて更に問題なのは,技術開発と人材育成が等閑にされてきた影響である。

 再エネとして,太陽光の次にブームが生じたバイオマス発電を見ると,日本に多く導入されているのが,バイオマスの熱利用で先進国であるオーストリアのコールバッハ社と,スイスのシュミット社の製品である。

 これら設備を見学するとIT技術の導入の点で,欧州が,日本とは段違いに進んでいることを実感させられる。欧州のバイオマス設備は,遠隔監視をしており,燃焼状況を常時,欧州にデータを送って見守っており,設備の制御も欧州から行っている。

 日本のボイラー会社は,IT化の点で欧州に差を付けられており,バイオマス発電と熱利用の点で,技術力に差が生じている。

 これは,制御技術の高度化,IT化,さらには省力化の点でも,日本が欧州に劣っており,人材育成の点で差を付けられていることを示している。

 同じような人材育成が等閑にされたため,日本がひたすら設備を輸入する立場に立ってしまっているのが風力発電である。風力発電の羽根(ブレード)も,日本は欧州や中国から輸入せざるを得なくなっており,羽根が欠損した場合には,再度輸入して届くまで待つしかない状況にある。風力に関しても,主要設備の多くが欧州や中国等からの導入のために,国内では常にサポートを受ける立場となってしまっている。

 以上のように,人材育成を怠ってしまったために,IT化の波に日本は乗り遅れており,良い設備を製造・販売しても売り切りで終わっている。IT化を進めて常時監視をして,さらにサービス料を徴収する現代の稼ぎ方を行うことができないままとなっている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4082.html)

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