世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4220
世界経済評論IMPACT No.4220

資さんうどんの「新カテゴリー」戦略:"見た目"で市場を塗り替える

宮本文幸

(桜美林大学 教授)

2026.02.23

 2月19日,千葉県に新規オープンした「資さん(すけさん)うどん こてはし店」を訪れた。資さんうどんは,どの店も終日行列との情報から平日午後4時に訪問したが,プレオープン中で時間帯限定のため,すぐの入店ができず,近隣の八千代店へ向かった。こちらはすんなり入店でき,名物「肉ごぼ天うどん(並)」を注文した。

 食べてみて,即座に気づいたことがある。これは単なる「うどん」ではない。

「牛丼うどん」という新カテゴリー

 資さんうどんの肉ごぼ天うどんが提供される瞬間,視界に飛び込んでくるのは,どんぶりの縁から溢れんばかりに盛られた牛肉とごぼう天の圧倒的なビジュアルだ。ラーメン二郎を想起させるダイナミックな「盛り」は,うどんの概念を根底から覆す。

 マーケティングの観点から言えば,これは見事な「新カテゴリー創出」である。

 従来のうどんは,繊細な出汁と上品なトッピングで勝負する「和の軽食」という位置づけを持つ。一方,牛丼は「ガッツリ系ファストフード」という明確なカテゴリーに属する。資さんうどんが実現したのは,「うどん×牛丼」の融合による第三のカテゴリーだ。ご飯は入らないが,牛丼の満足感をうどんで体験できる。既存のどの競合とも戦わない「ブルーオーシャン」である。

"見た目"がカテゴリーを定義する

 私はマーケティング研究において「アウトサイト思考」という概念を提唱している。インサイト(消費者の潜在ニーズの掘り起こし)に対し,アウトサイトとは「見た目(視覚)から逆に消費者の認知と欲求を刺激する」アプローチだ。

 資さんうどんのケースは,このアウトサイト戦略の教科書的な成功例といえる。

 「ガッツリ食べたい」という潜在ニーズを,説明文やキャッチコピーではなく,「あの盛り」という視覚的インパクトで一瞬にして伝える。消費者は商品を見た瞬間に「これは何だ⁉︎」という驚きとともに,自分のニーズとの一致を感じる。SNS時代において,このビジュアルはそのまま拡散力を持つ「動くキャラクター」として機能する。

 さらに深く分析すると,資さんうどんの「盛り」は私が提唱する「イメージ・モチーフ理論」にも合致している。商品コンセプト(ガッツリ系うどん)を外見のデザイン(ダイナミックな盛り付け)で象徴的に表現し,商品名・具材・調理法のすべてがそのコンセプトに向かって統一されている。コンセプトと見た目の一体感が,消費者の脳内で「新ジャンル」として強固に記憶されるのだ。

すかいらーくグループが示す「業態の見た目転換」

 「資さんうどん こてはし店」の開業にあたり,興味深い事実がある。Googleマップで確認すると,同地にはかつてガストが存在していた。同じすかいらーくグループ内で,業態の入れ替えが起きているのである。

 これは単なる経営の効率化にとどまらない。「見た目」の戦略的転換だ。ガストというカジュアルファミレスが担っていた「気軽な食事の場」というポジションに,「新ジャンルうどん」という尖ったアイデンティティを持つ資さんうどんを投入することで,既存の集客力を持つ立地に新しい「顔」を与えている。

 店舗のファサード(外観),トレイで出てくる博多スタイルのオペレーション,そして例の「盛り」——これらすべてが「ガスト的な日常性」とは一線を画す。消費者の脳は,同じ場所に新しい「見た目」が現れたとき,既知の記憶と新鮮な驚きを同時に処理する。この「認知的ギャップ」こそが話題化と来店動機の核心だ。

見た目が市場をつくる時代

 かつて私が資生堂で担当した殺菌デオドラント「Ag+」は,テレビCMなしで年間数千万本を売り上げた。成功の鍵は,「銀イオンによる殺菌」というコンセプトを,銀色のボトルという見た目で一瞬にして消費者に伝えたことにある。新カテゴリー(「香りでごまかさない消臭スプレー」)を見た目で定義したのだ。

 資さんうどんの「あの盛り」は,現代版のアウトサイト戦略である。競合のいない市場を見た目でつくり出し,消費者の感情を視覚から直接動かす。モノもヒトも,見た目がカテゴリーを定義し,カテゴリーが市場を生む。そのことを,一杯の肉ごぼ天うどんが改めて教えてくれた。

[注]
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4220.html)

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