世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
米国の雇用減速で9月利下げは確実
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2025.09.15
非農業就業者数は4カ月平均2.7万人増
9月5日発表の8月分米雇用統計によれば,非農業部門就業者数は前月比2.2万人増と7,8万人増を見込んでいだ事前の市場予想を下回ると共に,6,7月分も下方修正されました。過去4カ月の平均でも2.7万人増と,その前の4カ月の平均12.3万人増から大幅に鈍化しました。
雇用・賃金動向を総合的に示し,名目GDPとの相関も強い民間非農業部門賃金総額指数(就業者数×労働時間×時間当たり)は,前月比+0.3%,前年同月比+4.4%となりました。過去4カ月の賃金総額の伸びは年率+3.3%に留まっており,足元で伸び率が鈍化していることがうかがわれます。名目GDPの前年同期比成長率は今年4-6月期には+4.6%と1年前の+5.7%から低下していますが,今後さらに低下することが予想されます。雇用情勢を中心に米景気の減速感が強まっているようです。
失業率の上昇と労働参加率の低下
一方,失業率は8月には4.3%と7月の4.2%からわずかな上昇に留まり,労働参加率(労働力人口/16歳以上人口)は62.3%と7月の62.2%から若干上昇しました。8月には労働需給の指標に大きな変化は見られませんでした。ただ,失業率は2023年4月の3.4%を底に緩やかな上昇を続けており,労働参加率は2023年11月の62.8%が現行の景気拡大局面のピークだったようです。こうした失業率と労働参加率の動きは,失業が増えると共に職探しをあきらめる人が増えていることを示唆しており,景気拡大期の終盤から景気後退期の初期の典型的なパターンと言えます。
連続利下げの見通しが示されるのか
8月分雇用統計の発表を受けて,9月16,17日開催のFOMCでの利下げは確実視される状況です。今後の注目点は,9月以降のFOMCでも連続的に利下げが行われるかどうかです。6月時点のFOMC参加者の見通しでは,年内0.5%の利下げが見込まれていました。9月の見通しでは,9月利下げ分を含めて年内0.75%の引き下げとなり,9月から0.25%の利下げが3回連続で行われることが見込まれる形になりそうです。また,6月時点の見通しでは来年の利下げ幅が0.25%に留まるとされていましたが,これもさらに利下げが進む方向に修正されると考えられます。
ただ,8月25日付の本コラム「米国の9月利下げは微妙」で述べたように,インフレ率低下の兆しは見えていません。最大雇用と物価安定という二重の責務を担うFRBとしては,判断が難しい局面です。さらに,FRBがトランプ大統領の利下げ圧力に屈したとの見方が強まれば,米ドルへの信認が低下して,米ドル安や,インフレ率と長期金利の上昇を招きかねず,FRBの判断を一層難しくしています。
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