世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
日本のGDP統計改定が示唆するもの
(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)
2025.12.22
広範なGDP統計の改定
12月8日に発表された日本の7−9月期GDP統計の2次速報値は,通常の1次速報値後に得られた追加情報を反映するものとは違って,計上方法や基準年次などの広範な変更を伴うものであり,1994年1−3月期以降のデータが全面的に改定されました。
改定前後の新旧の統計を比較すると,新旧実質GDPの相対値は,起点の1994年1−3月期を100としたとき,2009年7−9月期に98.9まで下がり,そこから2022年10−12月期に101.8まで上昇しました。2009年7−9月期から2022年10−12月期までの実質GDPの平均年率成長率は,旧統計の+0.86%から新統計では+1.08%へと上方修正されました。しかし,そこから相対値は下落に転じ,2022年10−12月期から直近までの平均成長率は,+0.75%から+0.39%へと下方修正されました。新統計の実質GDP前年同期比成長率の推移を見ると,2023年7−9月期から2024年4−6月期にかけて,0.0%,0.0%,−1.2%,−1.2%であり,小幅の景気後退に近いものとなっています。
2022年末以降の景気過熱感が強まる
同様の方法で新旧GDPデフレーターの相対値を見ると,2009年1−3月期に99.0に下がった後,上昇に転じ,2020年頃から大きく上がっています。その結果,新統計では2022年頃からのインフレの加速が大きくなっています。2022年10−12月期から直近までのGDPデフレーターの平均年率上昇率は,旧統計の+3.5%から新統計では+3.8%に上方修正されました。また,2023年7−9月期に記録したGDPデフレーター前年同期比上昇率のピークも,+5.6%から+6.2%へと上方修正されました。上に示した2022年末までの経済成長率の上方修正とその後の下方修正を考えあわせると,新統計は2022年以降の景気過熱感を旧統計よりも強く示しており,日本経済が供給制約の壁に突き当たったことで2023年後半から2024年前半の実質GDP成長率の鈍化を招いたことが,より明確な形で示されたと言えるでしょう。実質GDP成長率の鈍化を受けてGDPデフレーター前年同期比上昇率は新旧統計とも一旦2%台まで低下しましたが,直近の2025年7−9月期は+2.8%から+3.4%へと上方修正されています。新統計によれば,一旦経済成長率が鈍化しても景気過熱感やインフレ圧力が十分に解消されていないことがうかがわれます。このタイミングで物価高対策として財政拡張策を打つと,インフレの再加速を招きかねません。
知的財産投資の上方修正
日本経済の供給能力を示す潜在GDPの推計は,日銀や内閣府が定期的に行っています。新GDP統計を受けた潜在GDP推計の改定値は未発表ですが,11月24日付の本コラム「容易でない日本経済の成長促進」で示した長期的な潜在成長率鈍化の姿に,大きな変化はなさそうです。そのレポートでは,日本の非住宅固定投資のGDP比は米国よりも高いものの,日本では現代経済における付加価値の源泉として重視される知的財産投資のGDP比が2008年以降伸び悩んでおり,潜在成長率を高めるには,設備投資の総量を増やすより,知的財産投資の構成比を高めるなど,投資の質の向上が重要だろうと述べました。
ところが,新GDP統計では近年の知的財産投資が大きく上方修正されました。GDP比で見ると,2012年10−12月期には新旧統計とも5.4%であったものが,2025年4−6月期には旧統計で5.8%であったのに対し,新統計では7.4%となり,7−9月期には7.5%となりました。米国の知的財産投資のGDP比は,2012年10−12月期の5.2%から2025年4−6月には6.8%へと上昇していますが,新統計における日本のGDP比の上昇ペースは,米国を上回るようになりました。その一方で,日本の潜在成長率には米国で見られるような潜在成長率の再加速の兆しは乏しいようです。理由は定かではありませんが,日本では,知的財産投資の増大が潜在成長率の上昇にあまり寄与していないのかもしれません。その点では,日本経済の潜在成長率を高める手立てを見出すことが,より難しくなったとも言えます。
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