世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3959
世界経済評論IMPACT No.3959

米国の9月利下げは微妙

榊 茂樹

(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)

2025.08.25

インフレ率低下の兆しが見えない

 8月1日に7月分米雇用統計が発表されて以来,市場では9月16,17日開催のFOMCでの利下げ予想が強くなっています。金利先物市場は,9月利下げを8割程度織り込んでいます。ただ,実際には利下げは微妙な情勢です。

 消費者物価に先行する傾向がある生産者物価最終需要指数は,7月にはエネルギー,食品を除くコア・ベースで前月比+0.9%と大きく上昇しました。トランプ関税の影響が企業レベルでは現れてきたようです。消費者物価指数の基調を示す中央値前年同月比上昇率は,1月以降+3.5%ないし+3.6%とほぼ横這いに留まっており,低下の兆しが見えません。

消費者信頼感指数は景気後退並みの水準

 ミシガン大学消費者調査8月分速報によれば,消費者の1年先の期待インフレ率は+4.9%と,7月の+4.5%から上昇しました。6%台半ばとなった4,5月よりは低いものの,トランプ関税による物価上昇に対する消費者の警戒感は依然強いようです。

 一方,消費者信頼感指数は,急落した4,5月から若干回復しましたが,過去の景気後退期並みの低水準に留まっています。実質個人消費支出は1-3月期の前期比年率換算+0.5%から,4-6月期には+1.4%と若干持ち直しましたが,再び鈍化する懸念があります。

トランプ大統領の利下げ要求に屈するのか

 6月のFOMC参加者の経済・金融見通しによれば,今年の実質GDP成長率(10-12月期の前年同期比)は+1.4%とFOMC参加者が想定する中長期成長トレンドの+1.8%を下回る緩やかなものとなり,失業率(10-12月期平均)は4.5%と足元の4.2%からやや上昇し,エネルギー・食品を除く個人消費支出価格指数で見たコア・インフレ率(10-12月期の前年同期比)が今年は+2.7%,来年は+2.2%と徐々に低下するとされていました。こうした見通しのもとで,FOMC参加者は年内0.5%の利下げを見込んでいました。今の所,経済成長率や失業率の状況は6月の見通しから大きくずれていないようです。ただ,先に述べたようにインフレ率低下の兆しが見えていないことから,9月のFOMCでの見通しでは,コア・インフレ率が若干上方修正されるかもしれません。

 トランプ大統領の執拗な利下げ要求も,金融政策の行方を不透明にしています。FRBが大統領の圧力に屈して利下げに追い込まれた形になると,米ドルへの信認が崩れてドル安が進み,インフレ圧力がさらに高まる懸念があります。9月5日発表の8月分雇用統計で,失業率が大きく上昇するなどして雇用情勢悪化の兆候が一段と強まらない限り,FRBは利下げに踏切りにくいでしょう。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3959.html)

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