世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3877
世界経済評論IMPACT No.3877

LPガス三部料金制徹底と取引適正化のゆくえ

橘川武郎

(国際大学 学長)

2025.06.23

 2024年4月2日,LPガスの取引適正化をめざして,液化石油ガス法令の改正が公布された。この改正法令は2024年7月2日に部分施行されたが,それを完全施行する措置として,公布から1年を経過した2025年4月2日に,LPガスの三部料金制が徹底されることになった。

 三部料金とは基本料金,従量料金,および設備料金のことであり,今後のLPガスの料金請求書には,これら3種類の料金請求額が,それぞれ独立して明記されることになる。設備費用が外出し表示されるわけであるが,そもそもこれからは,電気エアコンやWi-Fi機器など,LPガスと関係のない設備費用のLPガス料金への計上は,禁止されることになる。また,賃貸住宅向けLPガス料金に関しては,ガス器具等のガス関連消費機器費用の計上も認められない。

 なお,2025年4月2日時点で契約済みのLPガス販売の契約(いわゆる「既存契約」)については,設備費用の外出し表示が求められる一方で,設備費用の計上禁止にかかわる規制は適用されない。ただし,経済産業省は,改正省令の附則第3条に努力義務規定を設け,今後は,この規定にもとづき,既存契約を有するLPガス事業者に対して,新制度に対応する料金へ早期に移行するよう促していく方針である。

 三部料金制の徹底の施行を間近に控えた2025年3月19日に,総合資源エネルギー調査会資源・燃料分科会石油・天然ガス小委員会液化石油ガス流通ワーキンググループの第11回会合が開かれた。この会合で主として議論されたのは,三部料金制それ自体よりは,2024年7月の部分施行で禁止されたにもかかわらずその後も続く過大な営業行為をいかに取り締まるかという点であった。

 第11回会合の場で,事務局をつとめる資源エネルギー庁資源・燃料部燃料流通政策室は,配布した「事務局提出資料③」(2025年3月19日)のなかで,今後,規制の対象とする過大な営業行為に該当するか否かを判断する際には,(A)「LPガス事業者の切替えを実質的に制限することにつながるかどうか」(17頁),(B)「“他の事業分野の事例”に照らして正常な商慣習に相当するかどうか」(18頁),という二つの基準で臨むという方針を打ち出した。

 これらのうち,とくに重要な意味をもつのは,(B)の基準である。なぜなら,2024年7月以降の時期に通報フォームによって経済産業省に寄せられた問題行為の多くは,(B)の基準に照らせば,「クロ」と判定されるからである。今後の規制運用に当たっては,(B)の基準が効力を発揮することになるだろう。

 今回の制度改正がめざすLPガスの取引適正化を進展させるためには,実効性確保のために設定した諸施策を積極的に活用する必要がある。実効性確保の諸施策としては,通報フォーム,ガイドライン,自主取組宣言,公開モニタリング,立入検査,問題事業者名公表などを挙げることができる。

 通報フォームに関しては,エビデンス付きで通報を行うことが大切である。エビデンス付きで通報された問題行為については,ガイドラインに「規制対象となる行為」として明記されるべきである。自主取組宣言に関しては,宣言を行う事業者の数を増やすとともに,すでに行われた宣言自体の内容を批判的に検証する必要がある。そして,公開モニタリングや立入検査を通じて,「言っていることとやっていることが違う」問題事業者を炙り出し,場合によっては,その実名を公表していかなければならない。

 LPガスの取引適正化の実効性を確保するためには,さらに踏み込んで,次の二つの措置を講じるべきである。

 一つは,LPガス契約の切替えに当たるブローカーの活動を規制することである。2024年7月以降の時期に通報フォームで寄せられた問題行為のうちの相当数の案件や,2025年1月に静岡県で逮捕者を出した違法営業事件などからわかるように,LPガス業界ではびこる過大な営業行為の背景に,悪質なブローカーの暗躍があることは明らかである。エネルギー関連の「他の事業分野」である電気事業や都市ガス事業には,このような悪質ブローカーは存在しない。存在するのはLPガス事業のみであり,上記の(B)の基準に照らしても,LPガス契約の切替えに携わる悪質ブローカーの動きを封じるべきである。ブローカー規制は営業の自由を侵害するという意見もあるが,そのような意見は,LPガス事業の場合,悪質ブローカーの横行が何よりも大切な保安を毀損するおそれがあることを見落としている。

 いま一つは,問題事業者名公表の対象を,LPガス事業者だけでなく,不動産物件のオーナーや不動産管理会社にまで広げることである。LPガスをめぐる不適正な商慣行で消費者被害を受けている賃貸住宅の居住者は,LPガス事業者と契約を結ぶわけではない。居住者が直接契約する相手は,不動産物件のオーナーや不動産管理会社である。したがって,居住者が被害を受けぬようLPガスの取引適正化を進めるためには,問題がある不動産物件のオーナーや不動産管理会社の実名を「見える化」することが求められる。

 これら二つの措置が実現すれば,LPガス取引における過大な営業行為を相当程度抑え込むことができるだろう。三部料金制徹底後も,LPガス取引適正化の進展のためには,取り組むべき課題がまだまだ残されている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3877.html)

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橘川武郎

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