世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
排外主義か,国際主義か:「移民に開かれた国」をつくる
(専修大学経済学部 教授)
2024.12.02
2024年米大統領選でドナルド・トランプ氏が大統領に選出され,2期目のトランプ政権が発足する見通しとなった。トランプ氏が「MAGA(アメリカを再び偉大な国にする)」を掲げ,不法移民の強制送還や保護主義の強化など排外的で反国際主義の立場をとっていることは周知のとおりである。
しかし,その一方で,成熟した先進国でトランピスト的な自国中心主義とは異なるアプローチを取る国もある。報道によれば,スペインのサイス包摂・社会保障・移民相は,2024年11月20日に今後3年間で最大30万人の不法移民を合法化する計画を発表した。ここでサイス大臣が強調したのは,この措置が「文化的豊かさや人権尊重」とともに「繁栄」を目的としているということである。つまり,国内の人出不足への対応が意識されている。
いま,「すでに資本ストックが十分蓄積されているのに,人口が減っている成熟国」と「資本ストックの蓄積が不十分にもかかわらず,人口が増え続けて社会生活が麻痺している新興国・途上国」があるとしよう。このとき,後者から前者に人口が移動するのは「自然」である。
自然というのは,第1に,人間の「生存」にとってそれが必要だからだ(「生存」は歴史学で用いられる概念のひとつである)。また,第2に,成熟国にとって,蓄積された資本ストックを維持するのに労働力が必要だからだ(これは豊かさを維持するという「自然」である)。この意味で21世紀は移民の世紀とならざるをえない。
ところで,気づかれていることと思うが,ここでいう成熟国の典型国は日本である。つまり日本が意思決定の前提となる諸規範を更新し,移民を歓迎する国内法を整備し,種々の公的な制度を移民や外国籍保持者にも開かれたものにすることは「自然」である。
ただ,ここで問題なのは,上のプロセスは人口動態がカギになっているので,時間軸の単位は最低でも10年以上だろう。ところが,ヘイトクライムや「不法移民の強制送還」など排外主義的な政治行動(注1)の時間軸はもっと短い(あえていえば「週単位」である)。
仮に前者を長期,後者を短期とすると,足元は長期的な「大道」に対して短期の時間軸での反動が目立つ形になっている。しかし,歴史が教えるように,短期のバックラッシュや「逆張り」は長期の流れのアヤにすぎない。
こういう長期の認識と時間軸を意識した政治のできる政治家が必要だが,管見の限り,先の総裁選・代表選・総選挙ではほぼいなかった。日本は人口減少先進国である。そうであるがゆえに,長期的なトレンドを意識しつつ,短期の課題を着実に克服していく政治家がどの国にも増して必要である。そうしなければ日本の未来はない。
[注]
- (1)なお,警察庁の調査によると「外国人犯罪」は2013年から2022年の10年間で15%以上も減少しており(2万4342件から2万461件へ),ヘイトクライムや排外主義言説の「根拠」となっている「外国人犯罪が増えている」という事実判断は真実ではない。
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