世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
牛肉や大豆などの輸出入の変化から生じる森林破壊
(京都大学 名誉教授・国際経済労働研究所 所長)
2024.11.25
森林破壊を引き起こす商品生産
林野庁ウェブサイトに公開されている,「国際連合食糧農業機関」(FAO)の"Global Forest Resources Assessment, 2020"によると,2020年時点の世界の森林面積は41億ha強で,世界の陸地面積の約3割を占めている。2010年から2020年の間に,世界の森林は,年平均470万haほど減少した。ただし,1990年から2000年の間の森林が純減する速度は年平均780万haであったのだから,森林が純減する速度は低下傾向にある。
一方,Pendrill, Florence et al[2019]は,「商品生産による森林破壊」の具体的な数値を提示している。商品生産とは,牛肉,大豆,パーム油などの生産のことである。
この報告の主たる内容は,2005年から2013年の間における森林喪失の62%(550万ha/年)が,商業用に拡大された,農地,牧草地,植林地に起因するというものである。
現在,多くの先進国は森林面積を回復させている。それとは反対に,熱帯・亜熱帯地域は森林破壊を進行させている。森林を回復させている先進諸国は,自国の森林破壊につながる商品の自国生産を縮小し,それらを海外から輸入するようになった。そうした海外からの需要に刺激された熱帯・亜熱帯地域は,輸出用に牛肉や大豆などの生産を拡大させている。その結果,自国の森林破壊を拡大させてしまったのである。熱帯・亜熱帯地域で輸出向けに生産されている商品の大部分(87%)は,森林破壊率が減少している国,または森林回復率が増加している国に輸出されている。
とくに,牛肉と大豆
「世界資源研究所」(World Resources Institute)の下部機関である「世界森林監視機構」(Global Forest Watch)の2021年3月の報告によると,森林破壊の原因となっている主要な2つの製品は牛肉と大豆で,牛肉生産を含めた農業が,世界の森林破壊の最大の原因(40%)である。
このように,森林破壊の原因である商品の中で牛肉が農業に関連する森林破壊の36%を占め第1位である。牛肉産業は,森林を牛の牧草地に転換した。牧草地への転換によって,2001年から2015年の間に4,510万haの森林が破壊された。牛肉生産は,他のどの商品生産よりも5倍高い率で森林を破壊した。
大豆は,動物飼料として広く生産されており,特に家禽(37%)と豚(20%)向けに生産されている。この調査では大豆生産が第2位の森林破壊の原因にランクされており,2001年から2015年の間に820万ヘクタールの森林を破壊した。
陸の生物の80%は森林の中で生存している。ところが,牛肉産業に関連する森林破壊は,何百万もの生物の種類が生息するアマゾン河流域に集中している。アマゾン河流域の大部分を占めるブラジルだけでも,過去20年間の森林破壊の半分以上が牧草地への転換によるものであった。
森林破壊の原因となっている商品の輸出入構造が,世界の森林破壊の究極の原因である。例えば,「南米南部共同市場」(メルコスール,MERCOSUR)(注1)に参加している諸国は,EUにとって最大の牛肉供給国であり,EUの牛肉輸入全体の73%を占めている。つまり,先進諸国の森林の回復の裏面には,熱帯・亜熱帯地域の森林破壊の拡大が見られるのである。[注]
- (1)メルコスールは,1995年,域内の関税同盟で,加盟国は,アルゼンチン,ブラジル,パラグアイ,ウルグアイ,ボリビア(ベネズエラは,2024年4月現在,加盟資格停止中)である。
[参考文献]
- Pendrill, Florence et al[2019], "Agricultural and forestry trade drives large share of tropical deforestation emissions", Global Environmental Change, Volume 56, May.
- Eurogroup for animals, “Beef production drives deforestation five times more than any other sector” 22 April 2021
- 筆 者 :本山美彦
- 地 域 :欧州
- 分 野 :国際ビジネス
- 分 野 :新興国
- 分 野 :資源・エネルギー・環境
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