世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3357
世界経済評論IMPACT No.3357

生産等の減税を盛り込んだ「日本版IRA」の狙いと限界

福田佳之

((株)東レ経営研究所産業経済調査部長 チーフエコノミスト)

2024.04.01

生産等の量に応じた減税支援「日本版IRA」で投資の海外流出を防止

 産業競争力強化法改正案が2024年2月に閣議決定されて国会に提出された。同案の中には戦略分野国内生産促進税制がある。同税制の趣旨は,現時点では生産等のコスト高から事業採算性が見込みにくいものの,長期にわたってGXやDXや経済安全保障の観点で戦略的な投資が不可欠な製品・材料について,生産や販売の量に応じて減税することで支援していくことにある。

 対象製品は,EV(電気自動車,燃料電池車やプラグインハイブリッド車も含む),生産時の温室効果ガス排出量を削減した鉄鋼(グリーンスチール),植物や廃棄物等から生成したナフサ代替の化学品(グリーンケミカル),持続可能な航空燃料(SAF),マイコン・アナログ半導体,の戦略5分野の製品群である。対象期間は,事業計画の認定から10年間であり,減税の規模は,EVは1台当たり20~40万円,グリーンスチールは1トン当たり2万円,グリーンケミカルは同5万円,SAFは1リットル当たり30円,半導体について1枚当たり0.7~2.9万円等としており,法人税額の最大40%まで税額控除が可能である。ただし,賃上げや国内設備投資などの適用条件を付している。なお,税額控除の財源としてGX移行債の発行収入を予定している。

赤字会社には税額控除の枠組みが利用不可

 製品の製造や販売に対する支援制度は,これまで日本にはなく,海外でも米国を除いて存在しない。米国では税額控除の枠組みによる支援制度があり,最近ではインフレ抑制法(IRA)において太陽光・風力発電,CCUSや水素等の生産などにおいて同支援が設置・拡充された。そうしたこともあって,日本の戦略分野国内生産促進税制は「日本版IRA」と呼ばれる。日本版IRAは事業遂行における予見可能性を高めることで関連分野の海外投資の流出を防ぎ,国内投資の活性化と産業育成を狙う。

 もちろん問題点もある。日本版IRAは税額控除の枠組みによる支援のため,赤字企業は納める法人税がないため同制度を使えない。最大4年間の繰越期間は設けられているが,赤字期間は支援を受けられない。専業の中小企業やベンチャー企業のような事業会社は,参入直後は赤字になると見込まれるため,税額控除の枠組みによる支援を受けられない。

米国ではTax Equityの利用で赤字会社も支援を獲得

 米国では上の問題点に対応して事業会社が税額控除の恩恵を受ける仕組みが開発されている。Tax Equityである。米国では事業会社と金融機関など投資家が出資契約を結んで課税されない法人格を持つ「パススルー課税事業体」を組成することができる。出資契約では,議決権に加えて,当該事業体の課税所得や税額控除や現金配当を構成員に任意に割り当てられる。そこで,事業会社が税額控除を受け取り,投資家が課税所得を受け取るような出資契約(Tax Equity)を結ぶことで,事業会社は赤字でも税額控除を享受でき,投資家は赤字を他の所得と通算して法人税額を減らすことができる。調査会社のWood Mackenzieによると,Tax Equityによる再エネ等の関連市場は現在の150~200憶ドル程度から,IRAの実施を通じて拡大していき,2040年代後半には1,000憶ドルまで達するとする。

 こうした仕組みを日本において導入するには,出資契約で配当や税額控除の取り分まで変更できるような制度改正等が必要とされ,ハードルは決して低くない。だが筆者のヒアリング調査から,Tax Equityには多様な投資家を巻き込む効果もあると考える。税額控除の資金だけでなく,事業会社では容易に入手できない外部の知恵やノウハウ等が投入されることで支援対象となるGX関連等の事業拡大につながっていくのではないか。日本版IRAの次は日本版Tax Equityの導入を期待したい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3357.html)

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