世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3249
世界経済評論IMPACT No.3249

どうなる2024年?

榊 茂樹

(元野村アセットマネジメント チーフストラテジスト)

2024.01.08

ソフトランディングは困難

 明けましておめでとうございます。私は世界経済評論IMPACTに寄稿させていただく以前から個人的にレポートを作成しており,年初には「どうなるXXXX年?」というテーマで新年のご挨拶代わりに出すことにしています。昨年の「どうなる2023年?」では,2023年の世界経済の最大の注目点は景気後退としましたが,大外れでした。気を取り直して,今年の展望をしてみようと思います。

 世界景気は,若干減速しつつも景気後退には至っていません。米国の失業率は2022年12月の3.5%から2023年11月には3.7%とわずかに上昇しましたが,依然として歴史的低水準で推移しています。ユーロ圏では2022年12月の6.7%から2023年10月には6.5%に下がりました。一方,米欧のインフレ率は予想以上のペースで低下しました。米国の消費者物価指数の前年同月比上昇率は,2022年12月の+6.4%から2023年11月には+3.1%まで低下しました。ユーロ圏では同時期に+9.2%から+2.4%まで下がりました。

 金融市場では,景気後退を回避しつつインフレが収束するというソフトランディングの観測が強くなっています。ただ,実際には,ソフトランディングは困難でしょう。インフレ率低下は付加価値増加率の鈍化に他なりません。企業は利益を確保するためにコスト抑制に動き,設備投資が削減される上,雇用,賃金も抑制されて家計需要も減退しそうです。

 また,米FRBの政策金利の目標レンジは5.25~5.5%,欧州中央銀行の政策金利は4.5%と足元のインフレ率と比べてかなり高く,結果的に実質金利は高くなっています。金融引締めの景気への影響は,むしろこれから大きくなりそうです。早晩金融緩和が始まったとしても,景気刺激効果が現れるまでには,かなり時間がかかるでしょう。

限られる財政刺激策発動の余地

 IMF世界経済見通しのデータによれば,先進経済でも,新興・発展途上経済でも,財政収支は,コロナ禍前より悪化しています。先進経済の一般政府財政収支のGDP比は,2019年の−3.0%から2023年推計値は−5.2%へと赤字幅が拡大しています。新興・発展途上経済でも,同時期に−4.4%から−5.5%へと悪化しています。政府債務のGDP比も先進経済では2019年の104.1%から2023年推計値は112.1%に上昇し,新興・発展途上経済でも55.0%から67.0%に上昇しています。コロナ禍前よりも財政状況が悪化している分,新たな財政刺激策発動の余地は小さくなっていると言えます。

 もちろん,経済が危機的状況に陥れば,財政状況が悪くても財政刺激策を打たざるを得なくなるでしょう。ただ,景気後退を未然に防ぐために,財政刺激策を打つことは難しそうです。

中期ドル高局面の終焉

 FRBが算出している米ドルの実質実効為替レートは,2011年7月を底に上昇局面をたどってきました。2023年11月の水準は2011年7月を38.1%上回っています。変動為替相場制移行以来,1978~1985年,1995~2002年に続いて3度目の大きなドル高局面と言えます。米国のインフレが収束し,景気が悪化すれば,米景気を刺激するためにドルの大幅な下落が必要になるでしょう。中期的なドル高局面は終わりつつあると考えられます。

 一方,BIS(国際決済銀行)が算出している円の実質実効為替レートは,2011年7月から2023年11月の間に44.3%下落しています。ドル高と円安は表裏一体の関係にあると言えます。ドルの実質実効為替レートが下落すれば,割安感が強い円の実質実効為替レートが上昇するのは避けられないでしょう。世界景気が悪化する中,円高になれば,日本の景気も悪化し,インフレ率も下がることが予想されます。植田日銀総裁の発言とはニュアンスが違うかもしれませんが,2024年は日本経済にとって「チャレンジング」な年になりそうです。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3249.html)

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