世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3240
世界経済評論IMPACT No.3240

1970年代に騒がれた地球寒冷化論議

本山美彦

(京都大学 名誉教授・国際経済労働研究所 所長)

2023.12.25

 現在の地球温暖化論とはまったく反対に,1970年代は地球寒冷化論が耳目を引いていた。

 雑誌『タイム』(TIME,1974年6月24日号)は「新たな氷河期か?」("Another Ice Age?")という衝撃的なテーマの記事を載せた(注1)。

 「多くの気象学者たちが,大気の温度が過去30年にわたって低下してきたと証言している。この傾向が逆転する気配はなく,このまま行けば,地球は氷河期に向かうかも知れない。それはカッサンドラの予言のように人々に不安を与えている」と。

 『ニューズウィーク』(Newsweek)誌(1975年4月28日号)も同じような記事を掲載した。「寒冷化する世界」("The Cooling World")という,これまた刺激的なテーマのものであった(注2)。そこでは,「寒冷化が農業に打撃を与える」と結論していた。

 日本でも,1960年代にはそうした現象で苦しめられた。

 昭和38(1963)年1月の豪雪は「三八(さんぱち)豪雪」と呼ばれたほど過酷なものであった。1962年12月末から1963年2月初めまで,北陸地方を中心に東北地方から九州にかけての広い範囲で,歴史的な豪雪が生じたのである。

 この時期,全国的に気温が平年より3℃前後も低い異常低温となり,日本海側では繰り返し「日本海寒帯気団収束帯」(冬季に日本海で形成される,長さ1000km程度にわたる気団の収束帯のこと)に包まれた。2023年冬にも見舞われた。

 『氷河期が来る』と予言した根本順吉[1976]は,わずか2か月足らずの間に21版も重ねた。

 迷亭翁という雅号を持つ根本順吉(1919~2009年)は,気象庁予報課,長期予報課各種予報技術担当者で,『気象百年史』編纂に携わった。1963年日本付近の異常低気圧に気付き,以後異常気象の解析を行った。1970~80年に地球寒冷化を予測していたが,その後の温暖化現象について,温室効果ガスを原因とする説を採らず,予測を超えた変化であると主張した(根本順吉[1995])。

 この時代に,気象庁で長期予報を担当した人による著書がベストセラーになった。

 『異常気象―天明異変は再来するかー』という表題の和田英夫ほか[1965]は,1981年には14刷になるという長期間にわたるベストセラーぶりであった。

 しかし,同書は,当時の状況について批判的であった。

 「日本の気候は,ここしばらくの間,さしたる変動も無く温暖な状態を保ち,農業技術の向上にともなって米のでき高は記録の更新を毎年のように重ねてきた。このような太平ムードが崩れ,専門家に懸念されていた異常の気配が大きく全面に押し出されてきたのは,つい最近のことである。(中略)このような一連の異常に加えて,太陽黒点の変化状況が天明期ときわめてよく似ていることが指摘されるにおよんで,異常気象の不安はますますジャーナリズムを賑わすようになった」(14-15ページ)。

 同じく,寒冷化論議の過熱ぶりを諫める論考を,堀田佳男が『日経ビジネス』(2019年6月26日号)に寄稿している(堀田佳男[2019])。

 英国のノーザンブリアン(Northumbria)大学のヴァレンティナ・ジャルコヴァ(Valentina Zharkova)教授が,2015年7月9日に開かれた「王立天文学会」(Royal Astronomical Society=RAS)で,「今後15年ほどで太陽の活動が60%も減衰する」と発表したことを批判して,堀田は,「学者として研究内容を数値で示すことはできても,15年後に地球規模で寒冷化現象が起こるかどうかは断言しづらい」と指摘した。

 「米国科学アカデミーのレポート」(1975 US National Academy of Sciences/National Research Council Report)も,地道な研究の必要性を説いた。

 「我々は気候変動機構の良質な定量的理解をまだ満足に得ていない。基礎的な理解を持たずに気候予測はされるべきではない」(注3)と。

 ところが,同じ米国科学アカデミーが,それからわずか4年後の1979年に,地球温暖化が必然的であると断定してしまった。

 「CO2が倍増すると,熱平衡が達成され,現実的なモデリングでは地上気温が2℃から3.5℃の温暖化が生じる。高緯度は特に影響されやすい」と(注4)。

[注]
[参考文献]
  • 堀田佳男[2019],「地球は2030年からミニ氷河期に入るのか?」,『日経ビジネス』(2019年6月26日号)。
  • 根本順吉[1976],『氷河期が来る-異常気象が告げる人間の危機―」(光文社,1976.7.30第1版,1976.9.20第21版)
  • 根本順吉[1994],『超異常気象-30年の記録から』中公新書。
  • 和田英夫,安藤隆夫,根本順吉,朝倉正,久保木光熙著[1965],『異常気象―天明異変は再来するかー』講談社ブルーバックス。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3240.html)

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