世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
G7,中国など念頭「経済的威圧」対応で結束:EU,先行して対抗措置決定,本年内に施行
(駿河台大学 名誉教授・ITI 客員研究員)
2023.11.20
本年5月19~21日に広島で開催された先進7か国首脳会議(G7サミット)は,共同声明とは独立した初の「経済的強靭性および経済安全保障に関する声明」を発表した。「G7メンバー国やパートナー諸国の内外政策やその立場を損なうことを企図する経済的威圧の事案が憂慮すべき増加に直面している」として「それを抑止し,対抗する既存の手段を活用し,必要に応じて新たな手段を連携して検討する」という文言を盛り込んだ。中国,ロシアなど特定の国の名指しを避けたが,中露を念頭に置いていることは確かだ。その後10月30~31日に大阪で開催されたG7貿易相会合の共同声明でもG7が結束して対応することが確認されている。
特に,中国が近年,一方的な輸出入規制などを通じて,政治・外交面で対立案件があると,自国の主張を強引に押し通すために経済的威圧をかけるケースが増えている。
2010年以降の主要な事例としては,対象国が日本の案件として,尖閣諸島沖の中国漁船衝突事件に対するレアアース(希土類)の輸出規制(2010年),福島原発処理水放出に対する日本産水産物の輸入規制(2023年)がある。対日案件以外に,中国の反体制活動家のノーベル平和賞授与に対するノルウェー産サーモンの輸入規制(2010年),南シナ海スカボロー礁領有権を巡る紛争に対するフィリピン産バナナの輸入規制(2012年),中国通信機器大手メーカー華為技術(ファーウェイ)の女性幹部拘束に対するカナダ産菜種の輸入規制(2018年),新型コロナ発生源の調査要求に対する豪州産石炭・牛肉・ワインなどの輸入規制(2020年),「台湾代表処」(外交代表機関)開設許可に対するリトアニアとの外交関係格下げ・同国産品輸入許可申請却下・税関手続き停止(2021年)などがある。
日本は本年11月15日,WTO(世界貿易機関)・衛生植物検疫措置(SPS)委員会会合で,中国,ロシアによる日本産水産物の輸入規制を「科学的根拠に基づかない規制であり容認できない」として即時撤回を求めた。しかし,日本は現在までのところ,撤回を求めてWTOの紛争解決手続きに基づく申し立てを行っていないが,提訴すべきではないかと思う。
他方,G7メンバー国であるドイツ,フランス,イタリアはEU(欧州連合)レベルで対抗措置をとることになる。差し迫った事案として,イタリアは2024年3月に期限を迎える中国との「一帯一路」協定の更新問題がある。イタリアはG7で唯一,一帯一路に参加しているが,期待した効果が出ていないとして失望感が強い。ただ,離脱した場合,中国が何らかの経済的威圧の動きに出るのではないかという懸念が高まっている。
こうした中,EU理事会(閣僚理事会)は本年10月23日,先行する形で「経済的威圧」への対抗措置の実施を可能にする反威圧手段規則案を採択したと発表した。本年内に施行される見通しだ。規則案では,域外国(中露が念頭)が貿易や投資などに制限など実施する(と脅す)ことで,EUや加盟国の特定の地政学的な政策の中止や修正を迫る経済的威圧に対して,域外国との協議による解決が不調に終わった場合に,EUが迅速に,新たな関税の賦課,関税引き上げや輸出入許可の制限,サービス貿易の制限,直接投資や公共調達へのアクセスの制限といった幅広い対抗措置を課すことができるようになる。先のリトアニア事案を受けて,欧州委員会が2021年12月8日,EU理事会と欧州議会に対して,規則案を提案していたものである。当該事案については,欧州委員会は2022年1月27日にWTO紛争解決手続きに基づく協議の申し立てを中国に対して行ったと発表したものの,解決に向けた具体的な道筋は見えていない現状だ。
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