世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4013
世界経済評論IMPACT No.4013

移民排斥主義の右派ポピュリズム旋風:欧州主要の中道政権の基盤を揺るがす

田中友義

(駿河台大学 名誉教授)

2025.09.29

 衆院選挙,参院選挙と立て続けに惨敗し,連立与党の過半数割れを招いた石破首相が退陣を表明,右派ポピュリスト政党・参政党の躍進がその一因になったと,欧州メディアが一斉に日本の政治情勢を報じた。

 主要メディアは,右派ポピュリズム旋風がG7(主要7か国)で常態化した(独フランクフルター・アルゲマイネ紙),日本は他のG7諸国と同様に,保守主義に傾いている(仏フィガロ紙),政権与党の自民党内では穏健派と保守派の対立がポピュリスト新党の台頭で悪化している(英フィナンシャル・タイムズ紙)などと論評している。

 欧州メディアが日本の政局に注目するのは,欧州各国で反移民・排外主義を掲げる右派ポピュリスト政党が世論の支持を広げて,中道政権の基盤を揺るがしているからだ。フランス,ドイツ,英国のG7の3か国では,右派ポピュリスト政党がいずれも政権与党の支持率を大幅に上回るか,急追している。フランスでは極右の「国民連合」の支持率34%に対して,マクロン大統領の中道右派の「与党連合」は14%で遠く及ばない。ドイツは最大野党の極右の「ドイツのための選択肢」が24.2%で,メルツ首相の中道右派与党「キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)の26.9%に迫っている。英国では右派ポピュリスト政党「リフォームUK」の支持率が28%に達し,中道のスターマー労働党政権の20%,最大野党の中道右派の保守党の17%を大きくしのぐ。低迷の2大政党は支持回復の道が描けず,危機感を抱く。G7メンバーの中ではイタリアのメローニ首相の極右政権「イタリアの同胞」が29%と安定的な支持率を保持している。前回の2022年の総選挙での公約だった不法移民の追放で成果を上げたことが有権者に評価されたためだ。

 議会で少数与党の独,仏や,支持率が急落している英国の中道政権の政治基盤は脆弱化している。トップの交代は頻繁に起きて,その度に政治危機が訪れる。日本でも,第2期目の安倍政権を除けば,首相交代は常態化している。こんなエピソードがある。毎年開催されるG7首脳会議に出席する日本の首相は名前を覚える前に,新しい人物に代わっていたなどと他の首脳から冗談半分言われたそうだ。

 2020年以降で日本,フランス,ドイツ,イタリア,英国のG75か国の首相交代劇を見てみると,日本が4人〈安倍,菅,岸田,石破〉,フランス6人(カステックス,ボルヌ,アタル,バルニエ,バイル,ルコルニュ),ドイツ3人(メルケル,ショルツ,メルツ),イタリア3人(コンテ,ドラギ,メローニ),英国4人(ジョンソン,トラス,スナク,スターマー)となっている。ただ,日本の場合は,首相交代があっても,政権の枠組みは自民党主導で変わらなかったが,議院内閣制をとる英国,ドイツ,イタリアでは,与党が下野する政権交代が何度かあり,大きな政策変更をもたらした。大統領制をとるフランスの場合,少数与党主導で首相交代が行われるが,議会運営は容易ではなく,内政の混迷は深まっている。かつて,ミッテラン(左派・社会党),シラク(右派・共和国連合)大統領時代に「保革共存」と呼ばれる議会多数派の野党出身の首相を指名することがあった。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4013.html)

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