世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3165
世界経済評論IMPACT No.3165

帝国の論理からの飛翔のために

末永 茂

(国際貿易投資研究所 客員研究員)

2023.10.30

 国際政治や国際経済は帝国から全球の論理へ飛翔すべきであるが,今なお世界は領土拡張や属国を従えたくなる衝動に駆られている。10月7日にガザ地区からイスラエルへ砲撃があり,短期間に数千人もの死者を出している。憎しみの連鎖と聖戦という教義は民族の正当性主張に基づいているとはいえ,終着駅は見出せない。「覆水盆に返らず」なのに返そうとするから,つかの間の停戦があってもすぐ戦闘が始まる。国連での終わりなき会議が何度開かれても,相互の非難の応酬以外に全く成果を見出せないでいる。休戦や停戦を実現できる物理的強制力を持ち合わせていない国連では当然である。帝国の論理では版図は狭隘であることは自明であるが,人類はそれを打破できない。

 強権的国家が世界の半数以上であり,いわゆる民主的国家は少数派だが,だからと言って多数国の論理が正統だとはいえない。世界の現実は強権によらなければ治安を未だ保てないのであり,やむなくの選択に過ぎない。従って,仇討の論理から解放されることもなく,各国政府の多大な治安コストや覇権国依存で,世界の流動性が高まる世界政治のままである。世界政府や無国籍の世界軍へ治安部隊を統合する方が,合理的ではないだろうか。もっとも「中東諸国は政府機能も麻痺しており,それを一体誰が立て直すのか?(テヘラン大学教授の言)」ということにもなるのだが。

 概ね中東諸国は高い出生率と人口増加率を示している。シリアの人口増加率は2.62%,パレスチナは2.46%となっている。しかも,この地域の幼児死亡率は医療活動の増進で急速に減少している。人口急増が政治的不安定を齎すという説は,マルサス以来多くの論客によって議論されてきたが,時の国際情勢との絡みで論説は多様である。しかし,何れやってくる絶対限界の壁に衝突する前に,人類は自ら自省すべきではないだろうか。産業革命以来,国際開発の進展によっていくつもの障壁を乗り越えてきたのも事実だが,利用可能な地下資源が無限であるはずがない。人口が増えれば増える程,豊かになるのであればそれも一理あるが,日常生活と戦闘の併存が通常のスタイルというのはどうしたものか。

 また,この度のガザ地区の戦闘は,ウクライナ戦争の長期化が影響していないといえるのだろうか。大規模な戦闘が周辺国に波及,ないし転移する事例は歴史的に珍しくない。むしろ,これが典型的な歴史展開である。大規模な戦闘は絶対悪にも拘らず留まる所がない。また,戦時賠償による割譲もあるが,我が国の歴史経験では台湾の事例がある。ウクライナ➔中東➔台湾統一という事態が単なる国際情勢分析の問題から,現実の課題になる可能性も高まっている。台湾統治に関する限り,中華人民共和国の統治原理では課題が大きすぎる。中華帝国の論理では広大な世界を運営できないだろう。国内で見られる高層マンション群の建設放棄や都市計画の行き詰まり,さらには「一帯一路構想」の冒険主義的事業展開等は,これまでの中国社会主義建設に幾度か見られた,経済システムの根本的欠陥から表面化した問題だと考えられる。経済システムの行政先行型運営による資源配分の非効率,市場動向の歪曲化の結果である。こうした政府の近隣諸国への影響拡大は危険である。

 無際限の分離独立は混乱を助長しかねないが,武力による支配地の拡大は紛争が絶えない世界を創り出すだけである。台湾は中国国内問題であるとの主張もあるが,あえて独立すべきであろう(注1)。中国進攻による台湾の軍政化は,これまで培ってきた自由度の高い産業構造を維持できない。自発性・創意工夫を必要とする台湾企業体質を破壊し,生産性向上も困難になるからである。もちろん,従業員の労働意欲も喚起できなくなり,単なる面的な拡大主義に陥る可能性が高まり,ローマ帝国の二の舞いになるだけではないかと思われる。仮にウクライナのドンバス地域を,最終的にロシアが併合した場合でも同じようになるだろう。

 従属地域や植民地での政治支配問題は,軍政から民政への転換と関連して激しい過程を経てきた。民政による植民政策に関しては人道主義者の矢内原忠雄説(注2)が有力であったが,当時の軍部との対立から,彼の主張は大学追放という形に終わった。追放8年間は戦後の戦犯追放者7年間とほぼ同じであるから,歴史の逆転というか,繰り返しと表現すべきなのか迷うところである。左右対立は左右対称でもある。それはさておき,従属国の民政支配論は概ね近代文明化作用論でもある。これが国連の国際開発論にも引き継がれてきたが,どうやら世界の多様性は一筋縄にはいかないようである。

 現代世界では単一文明社会構築の前に,常に反作用としての地域紛争が爆発している。やはり,世界の警察機能は特定の大国ではなく,国権から離脱した独立機関としての軍事組織が担うべきではないだろうか。

[注]
  • (1)黄昭堂『台湾総督府』教育社,1981年。
  • (2)『矢内原忠雄全集』第一巻「植民政策研究」,岩波書店,1963年。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3165.html)

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