世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.3121
世界経済評論IMPACT No.3121

バイオメタン・バイオメタネーション・メタネーション

橘川武郎

(国際大学 学長)

2023.09.18

 総合資源エネルギー調査会電力・ガス事業分科会電力・ガス基本政策委員会ガス事業制度検討ワーキンググループは,2023年6月に開催した第31回会合で,「都市ガスのカーボンニュートラル化について」と題する中間整理を取りまとめた。この中間整理の一つの特徴は「都市ガスのカーボンニュートラル化におけるバイオメタンの重要性」を強調した点にあるが,それとの関連で「バイオメタネーション」について言及した点も注目される。

 中間整理は,バイオメタンについて,「バイオメタンは,バイオガスを精製(二酸化炭素等を除去)し,メタンとしての純度を高めたものであり,海外ではRNG(Renewable Natural Gas)と呼ばれることもある。原料となるバイオガスは,ごみ,下水汚泥,家畜排せつ物といったバイオマスをメタン発酵したものであり,その主成分はメタン約60%,二酸化炭素約40%である。既存の都市ガスインフラ・ネットワークが活用可能であり,需要家側での特別な燃料転換が不要である。バイオメタンの製造・ガス導管への注入は,国内外で実績があり,技術的に確立している」と述べている。一方,バイオメタネーションについては,「水素と二酸化炭素から合成メタン(e-methane)を生成するメタネーションの一種」と位置づけ,「メタネーション技術は,化学反応によるものと生物反応によるものに大別される。化学反応によるメタネーションは,触媒を用いたサバティエ反応に加えて,革新的メタネーションの技術開発に取り組んでいる。また,生物反応によるメタネーション(バイオメタネーション)は,触媒の代わりにメタン生成菌を用いる」と記している。その上で,欧州の動向に触れ「触媒を用いる化学的メタネーションとバイオメタネーションの両方の実証が見られるが,バイオエタノールプラントや下水処理等からのバイオガスからの二酸化炭素(CO2)を用いるものも多く,欧州におけるメタネーションの実証の一部は,バイオメタン製造の補完又は一環として取り組まれている」と論じ,欧州ではバイオメタネーションがバイオメタン製造の補完的役割を担っていることを明らかにしている。

 今日の日本では,バイオメタンという概念は存在するが,バイオメタネーションの概念は確立されていない。そのことは,日本ガス協会が公表している「2050年ガスのカーボンニュートラル化実現に向けた姿」からもうかがい知ることができる。同協会はその中で,「合成メタン(e-methane)90%,水素直接利用5%,バイオガスその他5%」という50年の都市ガス構成見通しを示しているが,バイオメタンについては「バイオガス」という表現で盛り込まれているものの,バイオメタネーションについては特段の言及がないのである。

 しかし,現実には,生物反応によるメタネーション(バイオメタネーション)は,化学反応によるメタネーションと並んで,重要な役割を果たしている。

 2023年6月に開催されたメタネーション推進官民協議会で大阪ガスは,「2030年からの社会実装に向けたe-メタン製造に関する実現可能性の検討」と題する報告を行ったが,その中で,30年代に実用化するメタネーションの主要な舞台はグリーン電力のコストが相対的に安価な海外になるとした上で,現在取り組んでいる次の五つのプロジェクトを紹介した。

  • ① 米国キャメロン(三菱商事・東京ガス・東邦ガスと提携,産業由来CO2+グリーン水素等,製造能力13万トン/年)。
  • ② 豪州(Santosと提携,産業由来CO2+グリーン水素等,製造能力6万トン/年)。
  • ③ ペルー(丸紅・ペルーLNGと提携,産業由来CO2+グリーン水素等,製造能力6万トン/年)。
  • ④ 米国中西部(Tallgrass・Green Plainsと提携,バイオ由来CO2+ブルー水素[将来グリーン水素],製造能力最大20万トン/年)。
  • ⑤ マレーシア(PETRONAS・IHIと提携,バイオマスガス化,製造能力6万トン/年)。

 これらのうち①②③は化学反応によるメタネーション,⑤はバイオメタンに相当するが,④はバイオ由来CO2を原料とする点でバイオメタネーションに近い。ここで注目すべきは,個別プロジェクトとして最大の製造規模に達するのが,バイオメタネーションに近い④であることだ。日本の都市ガス業界でメタネーションの象徴とみなされている①の製造能力は,④のそれに及ばないのである。

 日本で世界を代表するメタネーション事例とみなされているAudiのe-gasプロジェクト(ドイツ・ヴェルルテ)も,触媒メタン化の技術を使うものの,隣接するバイオマス工場からCO2供給を受けている点で,バイオメタネーションに近い。

 化石燃料由来のCO2を用いる化学反応によるメタネーションの実用化には,日本(利用)側が排出量ゼロとなるようなカウントルールの整備が難しいという大きな関門がある。これに対してバイオメタネーションの場合には,原料の調達・確保さえできればよいのであり,カーボンニュートラルと国際的に認定されているバイオマス由来のCO2を原料とするため,カウントルール自体を整備する必要がない。このメリットは大きい。わが国も,バイオメタン(バイオガス)とは別に,バイオメタネーションの概念を明確に設定し,メタネーション全体のなかでしっかりと位置づけるべき時期にさしかかっている。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article3121.html)

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