世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)
財政と金融に空いた巨大穴(フィナンシャル・ビッグホール):財政と金融の癒着合体(隠ぺい型)の登場
(高知大学 名誉教授)
2023.08.14
財政金融論で活発に発言しているある研究者が,「財政と金融の一体化は,わが国を含めて,すでに各国で中央銀行の独立性が法的に保証されている状況のなかで起こっている」と,共同執筆の財政学の教科書で書いていた。しかしこのような判断は,きわめて軽率かつ無責任なものである。どこからそのようにいえるのか,大きな疑問が残る。
実際には,中央銀行の独立性が保証されているどころか,ここには,財政と金融の分離規制における巨大穴(フィナンシャル・ビッグホール)の多くが,あちらこちらに空いているのである。
わたしの検討によれば,金融面には,10個以上もの巨大穴があった。本コラムですべてを説明する余裕はないので,重要なものに限定した上で,新日本銀行法の不備・不具合(フィナンシャル・ビッグホール)について,検討してみよう。
最高度の公共財である貨幣を管理する中央銀行には,三つの社会的責任原則(Socially Responsibility)が,厳しく求められる。①独立性原則,②健全度原則,③政策責任原則の三つである。貨幣の創造と管理という神聖な権限を与えられた以上は,当然のことである。
独立性原則の巨大穴
日銀総裁と副総裁そして政策委員会審議員の選任について,「両議院の同意を得て内閣が任命する。(第23条)」と定めた規定が,重大な不備・不具合だったことである。この規定によって,政府は自分に好都合な人物を自由に選任できるし,日銀を人的な面から思うがままに支配下に置くことができる。加えて大きな不備・不具合は,この選任過程と選任理由を,国民の前で公開させる規定がないことである。これではまったくの暗闇で,政府は自分の思うとおりに,日銀の重要人事を決めることができる。総裁,副総裁および政策委員会審議員の選任は,国会に専門家も交えた超党派の「選任委員会」を設置し,そこの公開の場で,人柄や能力そして適正さを判断し,より適切な人物を選任すべきである。
健全度原則の巨大穴
貨幣という高度な公共財を管理するのであるから,貨幣を安心して使えることを保証し,その信頼を維持するために,日銀の業務と財務が健全であることが不可欠である。
民間銀行には,大口融資規制があったり,迂回融資を禁じていたり,自己資本比率規制があったりして,財務の悪化を防ぎ,その健全性を保証する具体的規定が存在する。それと同様に,日銀にとっても財務の健全性は重要であり,「経営と財務の健全性に配慮し」,「自己資本比率基準を設定すること」,「自己資本を充実させること」などの日銀財務の健全性を保証させる具体的な規定が必要だった。ところが驚くことに,これについては,「適正かつ効率的に業務を運営すること。(第5条)」という,抽象的なものしかないのである。
日本公債論の権威である鈴木武雄氏は,70年近くも前に,「日銀の国債保有額を資産総額の一定割合以内とする規定を新日本銀行法に盛り込むこと」を求めていた。これは政府からの公債買上げを制限するとともに,大量の公債を保有してしまって,その公債価格の低下によって日銀財務が悪化することを防止するための,歯止め装置であった。
政策責任原則の巨大穴
国民に対して,どのように,そしてどのような政策責任をもつのか,という政策責任原則が,新日銀法には,まったく欠けていた。「意思決定の内容および過程を国民に明らかにし,大蔵大臣を経由して国会に提出すること。(第3条,第54条)」と「議事録を公表すること。(第20条)」と,定めた規定があるだけである。
国民や国会に説明しなさいということだけでは,黒田日銀のように自己弁護をずるずると続け,政策効果の検証の先送りを繰り返すだけになってしまう。政策責任原則を実現するためには,期限を明示しての政策効果の点検と検証を義務づけ,未達成時にその責任をとらせる体制と規定が必要である。国会に超党派で専門家も交えた「日銀政策検証委員会」を設立し,日銀がそこに定期的に報告するとともに,その点検と検証を受ける必要もある。
(詳しくは,紀国正典「アベノミクス国家破産(1)―貨幣破産・財政破産―」高知大学経済学会『高知論叢』第122号,2022年3月参照。この論文は,金融の公共性研究所サイト「国家破産とインフレーション」ページからダウンロードできる)。
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