世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2874
世界経済評論IMPACT No.2874

山形駅西口の熱供給事業:全国初の石油コージェネレーション方式

橘川武郎

(国際大学副学長・国際経営学研究科 教授)

2023.03.06

 2022年の10月,JR東日本・山形駅西口付近の建物群を対象にした地域熱供給事業を見学する機会があった。事業主体は,山形熱供給株式会社。会社設立は1999年2月,事業開始は2000年1月である。

 ビルや建物の冷暖房については,それぞれ個別にボイラーや冷凍機等を設置して行うことが,一般的である。これに対して,地域熱供給とは,一定の地域内の複数のビル・建物等を対象にし,それらの冷暖房用熱需要をまかなえる能力を有する熱供給プラントを設置して,冷水(冷房用)や蒸気(暖房用)などをまとめてつくり,独自の導管を通じてそれらを供給する地域単位の熱供給システムのことである。

 山形熱供給の特徴は,全国で初めて石油コージェネレーションを組み込んだシステムだという点にある。コージェネレーションとは,ディーゼルエンジンやガスタービンなどを使って発電を行うと同時に,その際発生する排ガスや冷却水から回収した排熱を熱供給用の熱源として利用するものである。一つのエネルギー源から二つ以上のエネルギー(電気,熱)を発生させる点から,「CO(共同の)GENERATIONG(発生)」と呼ばれる。

 ただし,国際的には,「ジェネレーション」が「発電」のみを意味するニュアンスが強いため,コージェネレーションではなく,CHP(Combined Heat and Power, 熱電併給)という呼称が使われることが多い。いずれにせよ,コージェネレーションないしCHPが,エネルギーを有効利用するものであり,環境にやさしいシステムであることは変わりがない。

 山形熱供給は,石油で駆動する600kWのディーゼルエンジン発電機を3台,そこから生じる排ガスで動く熱出力毎時0.3トンのボイラーを3台,石油ガスで動く熱出力毎時2トンの貫流ボイラーを8台擁し,そのほかに温水吸収式冷凍機,蒸気吸収式冷凍機,ターボ冷凍機(電力駆動),蓄熱槽などをもつ。それらの装置を24時間体制で中央監視室から集中監視・制御し,独自の配管を通じて,山形駅西口付近に立地する霞城(かじょう)セントラル・山形県総合文化芸術館・山形テルサの諸建物に,暖房・給湯用の蒸気と冷房用の冷水を供給している。霞城セントラルに対しては,電気の供給も行っている。

 主要な装置は霞城セントラル内に設置されており,それらを一通り見学させていただいた。スペースは広くはないが,そこに効率よく多様な機器が配置されていると感じた。

 霞城セントラルの高層階の展望室から見渡すと,山形熱供給の供給エリアは,山形市内の小さな一角に過ぎないことがわかる。しかし,このことは,山形熱供給の事業の社会的意味が小さいということを,決して意味しない。

 地域熱供給事業は,エネルギーの有効利用を通じて,脱炭素社会の構築に貢献する。にもかかわらず,日本では,地域熱供給事業が十分に普及しているとは言えない。たとえば,東北地方最大の都市である仙台には,地域熱供給事業が存在しない。そのような状況下で,山形熱供給が,「東北を代表する地域熱供給システムの担い手」として奮闘していることの意義は,きわめて大きいのである。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2874.html)

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