世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2871
世界経済評論IMPACT No.2871

植田日銀新総裁の誕生は喜ばしい!:しかし日本の財政金融はこれでいいのだろうか?

紀国正典

(高知大学 名誉教授)

2023.03.06

 植田日銀新総裁の誕生が決まった。衆議院での所信聴取では,アベノミクスの副作用が生じておりその政策検証が必要だと述べた。アベノミクスからの出口戦略を探るという報道もあった。そうだとすれば,たいへんに喜ばしいことである。このままアベノミクスが続くと,日本は確実にハイパー・インフレーションの地獄に陥るところだったのである。

 これまで複数の人物が候補にあがっていたが,彼らはなんらかの縁でアベノミクスと関係していた。この事前予想をすべてくつがえして,アベノミクスと関わりのない,しかも,植田氏のこれまでの言動を筆者が知るかぎりで,アベノミクスに批判的立場であった経済学者を,岸田首相は選んだのである。明らかにアベノミクスと決別することが狙いであったのだろう,と推察される。

 しかしこれでいいのだろうか? なんか変だなと感じるのは,わたしだけだろうか。

 2013年に首相に返り咲いた安倍晋三氏が,首相官邸に財務省出身の黒田東彦氏を訪問させ,リフレ派の岩田規久男氏を首相官邸に呼びつけ,日銀総裁と副総裁が誕生した。それから10年,日銀は政府のためにひたすら公債を買い続け,今や破産も視野に入った。

 結局のところ,アベノミクスの始まりも終わりも,日本の中央銀行である日銀の総裁と副総裁人事を,内閣総理大臣(政府)が指名することによって,決められたのである。これはどうみても異常なことであろう。中央銀行が政府に従属し,政府のために紙幣印刷機を回し続け,ハイパー・インフレーションを起こしたことへの反省から,第2次世界大戦後は,財政と金融は分離すべきというのが,主要先進国の潮流だったのである。

 世界の中央銀行の研究交流誌に提出されたディンサーとアイケングリーンの論文『中央銀行の透明性と独立性:新たな採点方法と基準』(International Journal of Central Banking, March, 2014)は,中央銀行の透明性と独立性に関する新しい採点方法と基準を提起し,これにもとづいて世界の中央銀行制度を採点評価している。

 その採点基準によれば,中央銀行の総裁の選出方法について,中央銀行の政策委員会が選出する場合に満点,次が議会が選出する場合,そして大臣や政府が選出する場合はゼロ点である。さらに解任規定なしで満点,政府による無条件解任でゼロ点である。同様の基準は,中央銀行の政策委員(日銀の場合は審議委員とよぶ)にもある。その選出方法について,政策委員会選出なら満点,次が議会選出,政府選出の場合にはゼロ点である。解任方法については,議会の同意と法律違反の二つで解任なら満点,政治的理由で政府部門や政策委員会が解任する場合には減点である。さらにこの委員会に政府代表者が参加できるかどうかについて,参加できない場合に満点,参加できるときはゼロ点である。

 中央銀行の政策決定権限について,中央銀行だけに権限があるなら満点,無しでゼロ点であり,さらに中央銀行の最終決定権を法律に明記してある場合には満点,政府に無条件決定権があるならゼロ点である。政府と意見が対立したときの解決方法については,中央銀行に最終決定権があることを法律に明記してあるなら満点,政府に無条件決定権があればゼロ点である。為替政策について中央銀行だけに権限ありで満点,無しでゼロ点である。

 さてそれでは,日本の場合はどうであろうか。信じられないことだが,戦時体制下の旧態依然とした旧日銀法が近年まで残存していたのである。これを改革する新日銀法は,不祥事が続いた大蔵省改革の副産物として1998年に発足した。しかしそれでも後進性は残り,総裁・副総裁そして審議委員は内閣が(両議員の同意を得て)任命することができ,大蔵大臣または経済企画庁長官は政策委員会に参加して意見を述べ,議案を提案し,議決事項の延期を求めることができ,さらに政府の経済政策と整合的になるよう政府と十分な意思疎通を図ること,というように,依然として政府が日銀を完全支配できていた。上記の基準で採点すれば,ゼロ点となろう。マスコミも世論も日本のこの異常さに鈍感となっており,この問題を批判しなくなっているが,そのことの方が,より異常なのかもしれない。

(詳しくは,紀国正典「アベノミクス国家破産(1)―貨幣破産・財政破産―」高知大学経済学会『高知論叢』第122号,2022年3月参照。この論文は,金融の公共性研究所サイト「国家破産とインフレーション」ページからダウンロードできる)。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2871.html)

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