世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2576
世界経済評論IMPACT No.2576

カーボンニュートラルコンビナート:川崎市の挑戦

橘川武郎

(国際大学 副学長・大学院国際経営学研究科 教授)

2022.06.20

 全国各地に展開するコンビナート。日本経済の屋台骨を支える存在であるとともに,地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)の大規模な発生源ともなっている。そのコンビナートで,2050年までにCO2の排出量を実質ゼロにしようという,大胆なビジョンが出現した。川崎市が22年3月に発表した「川崎カーボンニュートラルコンビナート構想」(以下,「構想」と表記)が,それである。

 19年度に川崎市で排出された温室効果ガスの総量はCO2換算で2139万トンであった。そのうちの73%に当る1567万トンが,臨海部に立地する30社の事業所から排出された。鉄鋼・化学・石油・セメントなどの製造工場が林立し,合計800万kW以上の出力をもつ多数の火力発電所が集積する川崎コンビナートは,まさに化石燃料からエネルギー・製品を供給する一大拠点となっている。それを根本から作り直し,カーボンニュートラルなエネルギー・製品の供給拠点に変身させようというのが,今回の「構想」の骨子だ。

 川崎市によれば,カーボンニュートラルとは,「温室効果ガスの排出量から吸収量と除去量を差し引いた数値がゼロの状態」をさす。そして,市が重視するもう1つのキーワードが,「従来の大量生産・大量消費・大量廃棄の経済モデルに代わる,製品と資源の価値を可能な限り長く保全・維持し,廃棄を削減していく経済」と定義づけるサーキュラー・エコノミーだ。

 この2つのキーワードを念頭に置いて,「構想」は以下の3点からなる川崎コンビナートの未来像を描き出す。

 第1は,「水素を軸としたカーボンニュートラルなエネルギーの供給拠点」である。これは,海外からCO2フリーの水素・合成メタン・アンモニアなどを輸入し,コンビナート内で発電用やナフサ分解用の燃料として使うとともに,カービンニュートラルなモビリティ燃料・電気・ガスを広く首都圏に供給するというイメージだ。ここでは,原油・LNG(液化天然ガス)の輸入量が全国の約10%に達するという川崎港の現状の特徴を,発展的に活用することになる。

 第2は,「炭素循環型コンビナート」である。これは,首都圏の廃プラスチックや川崎臨海部内外のCO2などの再資源化可能な炭素資源から素材・製品等を生産する,サーキュラー・エコノミーの具現化だ。ここでは,ケミカルリサイクルやマテリアルリサイクルの全国有数の拠点であり,年間約30万トンの廃プラ処理能力をもつという川崎コンビナートの強みが活かされ,拡張されることになる。

 第3は,「エネルギーが最適化され,立地競争力のある産業地域」である。これは,電気・ガス・水素等のエネルギーやユーティリティが地域全体で最適化され,世界最高レベルの安定的かつレジリエントなエネルギーネットワークが形成された,「そこに立地するだけでカーボンニュートラルを達成できる産業エリア」という絵姿だ。川崎コンビナート内には,既存の水素パイプラインだけでなくCO2パイプラインも構築されるだろうし,マイクログリッド的な電力系統の運用も実現することになろう。

 この「構想」が現実化すれば,川崎コンビナートは,地域内においてカーボンニュートラル化を達成するだけでなく,立地企業の活動を通じて広域のカーボンニュートラル化にも貢献する存在となる。この川崎市の挑戦に刺激されて,全国の他のコンビナートがどのような動きをみせるのか。今後の展開に注目したい。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2576.html)

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