世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2550
世界経済評論IMPACT No.2550

進むミャンマーの既成事実化とマレーシアの危機回避行動

助川成也

(国士舘大学政経学部 教授・泰日工業大学 客員教授)

2022.05.30

 2021年2月の軍事クーデターから約500日,ミャンマー国軍支配の既成事実化だけが進む。その状況に危機感を持ったマレーシアは単独で「待った」をかけた。一方,ミャンマーのRCEP参加を巡っては締約国内で対立,一部の国は容認した。

進む軍事政権の既成事実化

 2021年2月の軍事クーデターを受けて,同年4月末にASEAN首脳がミン・アウン・フライン国家統治評議会(SAC)議長(国軍司令官)を招き,「5項目合意」(注1)を取り付けてから1年以上が経過した。ASEAN議長特使が22年3月にようやくミャンマー訪問を実現したものの,民主化グループとの面談が許されないなど,「5項目合意」は未だ何一つ履行されていない。

 その状況の中,22年2月下旬に発生したロシアのウクライナ侵攻は,軍政にとって追い風となった。その間,国際社会からの目線をそらすことが出来,軍政の既成事実化に加えて,国軍の傀儡政党が勝利できる選挙制度を作り,23年8月にも予定される選挙で「民政移管」を大々的に喧伝するつもりであろう。

RCEP参加を一部が容認

 ASEANの仲裁外交が一向に進まず,時間ばかりが過ぎるこの状況に,ASEANの中には「軍政を事実上容認せざるを得ない」との空気感が出ている。22年1月に発効した地域的な包括的経済連携(RCEP)協定については,ミャンマーの参加を容認する国も出ている。

 ミャンマー軍政はRCEP批准書の寄託を21年半ばには完了させ,発効手続きが終了した旨を同年の経済相会議で報告していた。しかし,批准書をASEAN事務局が正式に受理した場合,ASEANは軍政を「正式な政府」として認めたと解釈される懸念から,寄託を保留していたとみられる。

 しかしこの状況に変化が起きている。当地の関係者によれば,RCEPへのミャンマーの参加を巡り締約国間で意見の違いが表面化,収拾がつかない状況に陥ったという。一部の締約国は「政治と経済とは別」としてミャンマーのRCEP参加を容認すべきと主張,複数国がこれに賛同した。一方,民主主義的価値観を重視する国々の一部は,軍政のRCEP参加を強硬に反対した。

 これら真っ向から対立する意見に,全ての国で一致した対応は困難となった模様であり,シンガポールは22年3月4日付でミャンマーとの間でRCEP発効を認めた。これにタイが続いた。タイ税関は22年3月21日,RCEP協定の特恵関税適用対象国にミャンマーを加えた上で,2022年1月1日に遡及して適用するとした。中国は国務院関税税則委員会が22年4月27日付で,5月1日以降ミャンマーからの輸入に対してRCEP協定税率を適用すると発表した。

 ミャンマーのRCEP参加の賛成国,反対国以外の多くの締約国は,事務局が断念したにも関わらず,「RCEPとして一致した対応をすべき」と主張している。実際,ミャンマーのRCEP参加を締約国が個別に判断した場合,例えば,RCEPの特徴ともいえる付加価値の「累積ルール」を用いる際,運用上で問題が生じる可能性があることも理由であろう。

マレーシア単独で「待った」

 軍政のミャンマーを事実上容認する空気感が強まる中,異例にもマレーシアは単独で「待った」をかけた。サイフディン・アブドラ外相は5月5日に開催されたASEAN外相会議で,「国軍側のみとの対話では,紛争の調停は望めない」として,ミャンマーの影の政府である国民統一政府(NUG)との非公式な関わりの確立を提案した。

 マレーシアは更なる行動に出ている。5月中旬に米ワシントンで開かれた米ASEAN特別首脳会議開催の傍らで,サイフディン外相は,NUGのズィン・マー・アウン外相(注2)と直接会談した。多くのASEAN加盟国が軍事政権を刺激しないようNUGとの繋がりや対話については口を噤む中,同外相は会談時の写真を敢えてSNS(注3)で公開した。

 このまま軍政の権力基盤確立だけが進み,「5項目の合意」が一向に進展しない場合,「ASEAN限界説」が再び頭をもたげ,ASEANの「求心力喪失」は避けられない。これまでASEANは全体として一致した対応を見せてきたが,マレーシアのスタンドプレーにも映る「待った」は,ASEANに対する「危機感」の表れである。

[注]
  • (1)5項目は,⑴暴力の即時停止と全当事者の最大限の自制,⑵すべての関係者による建設的対話の開始,⑶ASEAN議長特使による対話プロセスを調停,⑷ASEAN防災人道支援調整センターを通じた人道的支援,⑸特使と代表団がすべての関係者と会談。
  • (2)2022年5月15日付ズィン・マー・アウン氏ツイッター(https://mobile.Twitter.com/zinmaraungnug
  • (3)2022年5月14日付サイフディン・アブドラ氏ツイッター(https://mobile.twitter.com/saifuddinabd/
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2550.html)

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