世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.4024
世界経済評論IMPACT No.4024

ASEAN主導でRCEPを加速せよ:自由貿易の再興と地域の結束を導け

助川成也

(国士舘大学政経学部 教授・泰日工業大学 客員教授)

2025.10.06

RCEPで自由貿易の旗を再び掲げよ

 米国は自由貿易や多国間主義から距離を置き,相互関税の強化によってアジアの成長基盤である自由貿易体制を揺るがしている。アジア各国はこれまで,自由貿易体制の下,域内にサプライチェーンを張り巡らせ,輸出主導で成長を遂げてきた歴史がある。世界に保護主義の潮流が強まる中,アジアは自由貿易の旗を降ろしてはならない。むしろ,自ら自由貿易の潮流を創り出す気概を持つべきである。

 多くの輸入品が相互関税で米国市場から締め出されようとしている中,新たなFTA構築を目指す動きが顕在化しているが,局所的かつ応急措置的なFTAでは,世界を自由貿易の潮流に引き戻すことは出来ない。その意味で,RCEP(地域的な包括的経済連携協定)は,それ自体がアジアの自由貿易の象徴であり,戦略的なプラットフォームである。メガFTAというスケールと制度化された枠組みを持つRCEPを,より実効的かつ魅力的な制度へと改良・活用していくべきときが来ている。

RCEPの制度的進捗と見直し年

 RCEPは2020年11月に署名され,2022年1月1日に発効した。世界の人口や経済の3割を占めるなど「メガFTA」に相応しい規模を有しつつも,企業側で積極的に活用されているとは言い難い。その主因の一つは,関税撤廃までのスケジュールが極めて長期になっていることである。

 多くの通常のFTAでは,関税撤廃が10年程度で設計されることが多い。一方,RCEPでは,多くの関税品目について20年から25年という超長期スケジュールが設定されている。2042~47年撤廃完了では『今すぐ使える制度』とは言い難く,企業の投資や輸出戦略を後押ししない。加えて,RCEPの関税削減率・タイミングは,先行して発効している既存のFTAを上回る恩恵が出にくい。そのため,RCEPの「魅力度」を高め,企業にとって使いやすい制度にするには,自由化スケジュールの短縮など関税削減・撤廃構造の再設計を含む改正を議論する必要がある。

 今,まさにRCEPの魅力を高める機会が到来しようとしている。2024年12月には,条項の実施を支える機関として,ASEAN事務局内にRCEPサポートユニット(RSU)が設置された。また2027年にはRCEPの「一般見直し」が行われる予定である。この見直しは,条文の強化,域内ルール整合性,自由化スケジュールの見直しなどを議論する機会であり,RCEPを将来志向に進化させるための重要な転換点となる可能性がある。この見直しの機会を活用し,全体制度改正を通じて「魅力あるRCEP」を構築できれば,インド復帰を含む呼び水として作用する可能性もある。RCEP全体の制度改正も重要だが,とりわけ自由貿易効果が大きい関税削減措置は「優先交渉対象」として早期に協議を進め,先行合意を図るべきである。

ASEANの主導と日本の戦略的責務

 ASEANには,AFTA(ASEAN自由貿易地域)時代から,関税撤廃期限の前倒しや敏感品目の削減といった手法を通じて,求心力を高めてきた経験がある。ASEANは経験を生かし,撤廃期限前倒しを主導することでRCEP再興と中心性を示せる。具体的には,ASEANが中心となり以下のようなアクションを取るべきである。

 前倒し案の提示:関税撤廃スケジュールの短縮案を,段階的または品目群ごとに示す。例えば,最も競争力が高い産業や輸出志向型分野で撤廃期限を10年程度に前倒しするパターン案を提示する。

 モデル品目・モデル国枠組みの試行:数カ国・数品目で「早期撤廃モデル」を試行して成果を示し,他国への波及を図る。これにより制度改革の信頼性と説得力を高める。

 外交・戦略連携:2027年の一般見直しを念頭に,26年は経済的影響力を持つ加盟国と協調し,制度改正の合意形成を目指す準備期間とする。

今こそRCEPを未来志向で強化すべき

 米国が多国間主義を後退させ,自由貿易の潮流が揺らぐ今,アジアにおける自由貿易の旗を再び掲げる使命を果たすにあたって,RCEPの加速化は不可欠かつ有効な戦略である。日本や主要RCEP加盟国も,積極的に改革案を提案・協調しつつ,アジアの自由貿易の推進力を強化すべきである。

 日本とASEANは,RCEPを単なる制度維持ではなく,アジアの自由貿易再興の旗艦に育てる責務を負っている。RCEPを活性化し魅力と利用率を高め,将来の拡張につなげてこそ,アジアは次世代の自由貿易を牽引できる。アジアはRCEPという資産を未来志向で再構築し,世界に向けて自由貿易の潮流を再び創り出す中心軸として輝かせねばならない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article4024.html)

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