世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2492
世界経済評論IMPACT No.2492

グローバルバリュー・チェーン(GVC)からの課題

川島 哲

(金沢星稜大学経済学部 教授)

2022.04.04

 石川(2016)が指摘するように,実際の貿易は,直送のみならず,第三国を介在する仲介貿易が多い。仲介貿易には2種類ある。ひとつが,貨物を輸送する物流と貿易書類を送る商流とも第三国経由である「物流・商流とも第三国経由」(かっこは原文どおり)であり,もうひとつが「物流は直送,商流は第三国経由」(かっこは原文どおり)がある。

 グローバル化とともに生産工程を国際的に分業化する潮流がなされてきた。

 コロナ禍においては,GVCの見直しが議論されている。

 OECD(2013)は,GVCを「企画構想から最終消費に至るまで,企業がその製品を市場に投入するために国内外で行うすべての活動」と定義している。

 東アジアにおける国際生産分業を促進する3つの要件があげられる。

 第1に,比較優位性,第2に,製造拠点を連結する諸機能へのアクセシビリティ,第3に,スケールメリットを十分生かせる市場の存在である。

 これらに加え,近年の米中関係の貿易摩擦や経済安全保障に関する問題が生じている。

 わが国においても安全保障関連法案が2022年2月に閣議決定され,今国会での成立を目指している。

 これをASEANといかに結び付けて考えられるかは大変注目すべき論点である。

 ASEANが突きつけられている今後の課題として第1に,「自由で開かれたインド太平洋」という視点において「ASEAN中心性」についてである。このASEAN中心性が再び問われ直している。

 第2に,米国の保護主義とメガFTAがどのような針路をとっていくのかという点である。換言すれば,例えば米国抜きのCPTPPが中国や台湾の加入問題でいかに対処していくのか。

 そこにASEANがいかに関与できるのか。できるとすればどう関与していくのか。

 第3に,ASEANは,QUADやAUKUSなどに埋没しないでいかに東アジア,ひいてはインド太平洋でその存在価値を示し,その存在感を高めていけるのかが今後の大きな課題であると考えている。経済安全保障と同時にASEANにおけるプレゼンスが重要となってくる。

 第4に,ASEANのみならず日本がそれにどう関与していくのかが大きく問われている。

[参考文献]
  • OECD(2013)Interconnected Economies :Benefiting from Global Value Chains, Organisation for Economic Co-operation and Development, Paris.
  • 石川幸一(2016)「日本企業のサプライチェーンとFTA-ASEANを事例として-」石川幸一・馬田啓一・渡邉頼純『メガFTAと世界経済秩序—ポストTPPの課題—』勁草書房,195~211ページ。
  • 猪俣哲史(2019)『グローバル・バリューチェーン-新・南北問題へのまなざし-』日本経済新聞出版社。
  • 川島哲(2021)「RCEP署名にみるASEAN経済統合の変貌と今後の課題」『金沢星稜大学論集』 第54巻第2号,1~10ページ。
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2492.html)

関連記事

川島 哲

最新のコラム