世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2408
世界経済評論IMPACT No.2408

中国住宅価格高騰を考える

童 適平

(獨協大学経済学部 教授)

2022.01.31

 前掲の拙稿(2021年11月8日付,No2335)に引き続き中国住宅価格高騰の話をしたい。というのは最新公表された中国70の大・中都市のほとんどの住宅価格指数(2021年12月)では,前月比で低下した都市が少なくないが,前年同月比はほとんど上昇傾向が続いている。また,北京市,上海市と深圳市は前月比でも上昇が続いている。住宅市場の堅調ぶりが見て取れる。

 そもそも中国の住宅価格を見るときに,注意しなければならないのは,日本の路線価格のように地価の定点調査が行われていないか,行われてもそのデータが公表されていないことである。公表される住宅価格とは一定エリアの住宅の販売面積と販売金額から単純計算ではじきだされたものである。例えば,2020年北京市の住宅価格は1平米42684元であるのも,住宅の販売面積733.59万平米,販売金額3131.31億元から計算されたものである。全北京市のその年に販売された住宅の平均価格である。北京市の面積は16,400平方キロメートルもあるが,その年(時)に供給された住宅の所在地によって販売価格はずいぶん違う。販売価格の違いで住宅価格が上昇しているかどうかを判断するのは問題であることは明らかである。住宅建設が都市の中心部から郊外に広がるのは一般的なので,地域平均住宅価格を用いて,住宅価格の上昇程度を過小評価しがちである。このため,中国政府統計局が発表した70の大・中都市の住宅価格指数は各都市の住宅平均価格の変化を示したものだけであり注意する必要がある。

 限られたデータに基づいて,中国の住宅価格を考えてみよう。

 『中国統計年鑑』によれば,2000年の全国住宅の平均価格は1948元であったが,2010年に4725元,2020年に9980元と,20年間で5倍強に上昇した。広大な中国全土の平均価格はあまり問題の説明にならないことは前述のとおりであるので,できるだけ地域を絞って,見てみることにする。

 地域の範囲を狭めて,入手もできる条件を満たした比較的にまともな統計データとしては主要都市の区政府が編集した統計年鑑がある。これから取り上げる『徐滙年鑑』は,上海市の区の一つである徐滙区統計局が編集したものである。『徐滙年鑑』によれば,2000年,2010年と2020年,上海市徐滙区の新築住宅(戸建て住宅もあろうが,マンションと考えればよい)の平均価格は5440元,26,757元と102,492元であり,2020年は2000年の18倍強であることが分かる。勿論,徐滙区といえば,区域の面積は54平方キロメートルにも及ぶので,この数字は必ずしも徐滙区の住宅価格の現状を正確に現しているとは思わないが,全国平均よりは真実に接近したと言えるであろうか。

 一方,同じ『徐滙年鑑』によれば,2020年,徐滙区に在住する正規就業者の平均年収は141,977元である。飲まず食わずして,約1.38平米しか購入できないので,100平米の3LDK新築マンションを購入するのに,約72年分の所得が必要になる。上海のマンションの面積にはマンションの廊下,エレベータなどの共用スペースも含まれるので,100平米は決して広くない。筆者の感覚では,日本の70平米のマンションに相当すると考えれば妥当であろう。夫婦共稼ぎのことを考えても,東京のマンションの年収倍率よりははるかに高いことが分かる。

 余りにも高い年収倍率のマンションの価格が崩れずに維持されることは不思議でならない。考えられる理由としては,①新婚夫婦双方の親からの支援を一人子政策で独占的に享受できた新居購入需要,②古いマンションを処分して得た資金を,新築マンション購入に充て負担を比較的軽くした地元住民の住み替え需要,③所得格差の拡大により生み出された富裕層の需要,④銀行住宅ローンによるサポートなど,があるほか,住宅に対する投資目的の需要も無視できない。先述の『徐滙年鑑』による徐滙区正規就業者の平均年収は,2000年,2010年と2020年それぞれ,15,790元,58,258元と141,977元である。つまり,2020年の年収が2000年比と2010年比でそれぞれ9倍と2.4倍であるのに対して,同じ時期,新築住宅価格の上昇は18.8倍と3.8倍よりかなり低い。つまり,所得の上昇は住宅価格の上昇に追い付いていない。住宅投資のキャピタルゲインは住宅価格の上昇を煽る原因の一つとも考えられる。

 どこの不動産バブルも同じように,不動産投資のリターンは自己実現のものである。結果でもあれば,原因でもある。問題は,この自己実現はいつまで続くかにある。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2408.html)

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