世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2335
世界経済評論IMPACT No.2335

中国の住宅価格と家計の銀行預金

童 適平

(独協大学経済学部 教授)

2021.11.08

 中国の住宅価格の高騰は話題としては久しい。価格が暴落するかと言われながら,上昇が続いているどころか,逆に上昇が加速している。この状態は十年以上も続いた。上昇期間の長さも価格上昇の幅も1980年代後半の日本の不動産バブルの比ではない。勿論,中国の住宅価格を土地の私所有である日本と比べるのには無理がある。最近,不動産開発大手の“恒大グループ”が発行した債券の利払い遅れもまたメディアを賑わせた。“今度こそ”になるであろうか。

 改革による経済の急成長とともに,個人も豊かになり,欲望が膨らんた。“衣食”の需要がある程度満たされた後,人々の目は“住”に向かったのであるが,数十年間都市住宅の建設がおろそかにされた結果,都市は深刻な住宅難に陥っていた。この都市住宅問題の解決策として,国有土地使用権の期限付の譲渡が認められ,住宅が商品化され,マイホーム制度が実施されたのは,1990年代中期以降である。2000年に入ってからは,住宅は消費財としてだけでなく,資産としても注目されるようになったので,住宅価格の上昇が加速した。

 住宅価格の上昇は複雑で様々な要因によるものであるが,住宅の消費者である家計の購入資金という角度から考えれば,まずは家計貯蓄の増加が挙げられる。

 2001年,家計の銀行預金残高は73,762億元であったが,2021年9月現在,これは1,018,366億元(約18,127兆円相当)に達し,12.8倍も増加した。一方,2000年に入ってから,銀行預金金利は低下した。例えば1年定期は1990年代前半の10%近くから徐々に2%台(2002年2月21日に1.98%)に下落した。銀行預金代替の個人資産運用金融商品は存在しない中,住宅に目が向かうようになるのは当然であろう。家計の貯蓄は住宅に流れ始めた。ただし,この時期,住宅購入資金はほとんど一括払いの現金支払いであった。銀行預金の感覚で住宅に“貯蓄”していたのである。

 その後,銀行側は住宅ローンに着目し,政府の奨励や法整備もあり,鳴り物入りに,住宅ローンが登場してきた。2001年,銀行の住宅ローン残高は5,598億元(中国国家統計局「中国2001年国民経済と社会発展統計公報」)であるが,2021年9月現在,37.37兆元(中国人民銀行「2021年9月金融機関貸出先統計報告書」)に増加した。住宅価格上昇を支えたもう一つの要因は銀行住宅ローンの急増といえるであろう。

 ところが,家計貯蓄も銀行住宅ローンもその増加がいつまで続くのであろうか。

 家計貯蓄の増加率は鈍化しているのに対して,銀行住宅ローンの増加率は逆に上昇している。この結果,2021年9月現在,銀行預金残高(1,018,366億元)に対する住宅ローン残高(37.37兆元)の比率は36.7%に達した。住宅ローン以外の消費財購入や経営性の資金借り入れを含むと銀行の家計への貸出は69.54兆元に上る。言い方を変えれば,家計の銀行預金の約7割弱は銀行から家計に還流している。資金不足部門である政府や企業の債務残高が増加する中,資金余剰部門として家計の資金供与の余地はさほど大きくない。もっとも預金の量の変化に働く要因であるマーシャルk(M2/GDP)はもう2.15(2020年)に達した。

 ちなみに,日本のことと比較してみる。2021年3月現在,銀行と信用金庫を含めた個人預金残高は6,366,284億円,個人の住宅ローン残高は1,507,955億円である。銀行預金残高に対する住宅ローン残高の比率は23.7%である。1980年代日本の不動産バブル絶好調の時は20%以下であった。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2335.html)

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