世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2339
世界経済評論IMPACT No.2339

日本の軸となる中長期成長戦略の欠如:中国の「科学技術強国」モデル

朽木昭文

(国際貿易投資研究所 客員研究員・放送大学 客員教授)

2021.11.15

1.習近平氏の論文

 「14.5」計画は,第2篇の「イノベーション駆動の発展戦略の堅持」から始まり,科学技術強国の具体的な取り組み内容が記されている。また,第13期全国人民代表大会の政府活動報告においても同様の報告をした。「イノベーション・リーダー公募」(人材)などの仕組みを押し広める(北京3月5日発新華社)。新華社電は,「14.5計画の10大キーワード」の1つに「イノベーション駆動」を挙げる(深圳3月17日発,東京3月19日発中国通信)。

 習近平氏の演説では,「科学技術強国」の重要性を説いた。そこで,科学技術・教育興国戦略,人材強国戦略,イノベーション駆動発展戦略の重要性を指摘した。基礎研究,オリジナルイノベーションの策源地構築,基幹コア技術を具体的な例として挙げた(注1)。

 2021年3月25日の福建省・福州の会合では,デジタル化の加速の必要を指摘した。人工知能(AI),量子情報,移動通信,もののインターネット(IoT),ブロックチェーンなどである。イノベーション・エコシステム環境を最適化し,イノベーション創造活力を喚起することを促した。その際に,「一帯一路」共同建設に深く融合し,「自由貿易試験区」を運営するように指示した(注2)。

 習近平氏は,「世界の主要な科学センターと革新の高地になるよう努力しよう」という論文を投稿した。そこで,次の5点を提案した(注3)。

 第1に,供給サイドの構造改革,産業チェーンの再生とバリューチェーンの向上を図り,有効需要と潜在需要を満たし,需給がマッチし動的均衡のとれた発展を図る。一群の「戦略的新興産業クラスター」を優先的に育てる。グローバルなバリューチェーンのミドル・ハイエンドを重視する。

 第2に,基幹・コア技術と基礎研究を重視する。その際に,先端「学際領域」に注目している。第3に,科学技術革新と制度刷新の二輪駆動により「制度」の重要性を理解している。そのために「民間の軍需参加」と「軍需の民生転用」の障碍を除き,研究費の使用・管理方式の改革・革新を説く。第4に,グローバルな科学技術ガバナンスに深く参画には「一帯一路」の活用を説く。第5に,発展をリードする人材の戦略的地位を確立する必要性を説く。具体的には,「人材評価制度」の革新である。

2.李克強首相の座談会

 李克強首相は,2021年7月19日に国家自然科学基金委員会で座談会を開いた。そこで,基礎研究の重要性とその人材の養成を強調した。また,7月28日の国務院常務会議において,財政の研究費管理改善へ現場により大きい自主権研究者に経費管理のより大きい自主権を与える。研究プロジェクトの経費のうち,「人」に使われる費用を50%以上,数学など純粋に理論的な基礎研究プロジェクトでは,間接費の比率の60%以上を認めた(北京7月28日発新華社,李克強首相)。基礎研究を安定的に支援する仕組みを充実させ,投入を大幅に増やし,中央レベルの基礎研究支出(ファンド)を10.6%増やす。

3.科学技術強国の進行と米中覇権争い

 2021年6月末現在,中国の国内の有効発明特許件数は245万4000件となった。また,国内の有効発明特許のうち,戦略的新興産業分野の特許は73万1000件に達した。これは2020年末に比べ5万3000件増加した(北京7月14日発新華社)。次の3点が工業・情報化省に関して特筆される。

 第1に,「インターネットプロトコル・バージョン6(IPv6)」に関して,「14.5」計画期の2025年までに先進的な技術,産業,施設,応用,安全体系を全面的に構築するよう求めた(注4)。第2に,「スマートシティーインフラとインテリジェント・コネクテッド・ビークル(ICV)の協同発展」の試行都市として,北京,上海,広州,武漢,長沙,無錫の6都市が決定された(注5)。第3に,2025年までにブロックチェーン産業の総合力を世界の先進水準に到達することを目指す(注6)。

4.最後に

 このように中国の科学技術強国の戦略は,中長期の基軸となる(Kuchiki(2021)参照)。しかし,日本ではコロナ後の第4次産業革命の下で期軸が欠如しているという指摘がある。

 イノベーションが日本の軸となり,それに向けた人材の招致と育成が有効である。2015年にノーベル賞学者4人を要した沖縄科学技術大学院大学(OIST)の国際化への成功が参考となる。日本の明治時代に戻り「お雇い外国人」1,000人招致計画と最優秀高校生1,000人海外留学生計画が,日本の中長期の起死回生の戦略となる。

[注]
  • (1)〔東京5月28日発中国通信〕28日の新華社微博アプリによると,中国科学院・中国工程院院士(会員)大会と中国科学技術協会第10回全国代表大会。
  • (2)福州3月25日発新華社=中国通信。
  • (3)3月16日発売の雑誌『求是』(中国共産党中央機関誌)2021年第6号。
  • (4)北京7月23日発新華社。
  • (5)東京5月7日発中国通信。
  • (6)東京6月8日新華社電子版。
[参考文献]
  • Kuchiki, A. (2021) “‘Sequencing Economics’ on the ICT Industry Agglomeration for Economic Integration,” Economies 9(1):2. https://doi.org/10.3390/ economies9010002.
(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2339.html)

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