世界経済評論IMPACT(世界経済評論インパクト)

No.2182
世界経済評論IMPACT No.2182

米中半導体戦争と日本半導体産業の再生

三輪晴治

(エアノス・ジャパン 代表取締役)

2021.06.07

米中半導体戦争

 アメリカは,中国共産党の動きからして,半導体産業において中国と「デカップリング(分断)」をして,アメリカの半導体技術力を強化すると宣言した。

 アメリカは4月8日「戦略的競争法2021」を策定し,議会に提出した。4月中にはバイデンはこれにサインするだろうと言われている。この法は,これまでアメリカは世界のテロ組織を攻撃してきたが,これからアメリカが攻撃する対象は「中国共産党」であると宣言したものである。アメリカ・ペンタゴンはいろいろの「情報戦」をこれから展開する。

 中国共産党はアメリカのこの法案にたいして激怒している。習近平は,アメリカが同盟国と共に脱中国を進めていることに対して4月20日のあるフォーラムで「デカップリングは経済秩序や市場のルールに反し,誰の得にもならない」と抗議した。

 中国と関係があるバイデンが大統領になり,中国共産党への攻撃の手を緩めるのではないかと思われたが,アメリカ議会はトランプの政策を踏襲し,中国共産党への攻撃をますますエスカレートさせていくようだ。

 しかし日本政府も産業界も,まだ中国市場を捨てきれず,多くの親中派は中国に頼ろうとしている。しかしアメリカはそれを許さないであろう。すでにアメリカのワシントンは日本の親中派を排除しようと動き出している。

 トランプ時代はTSMCをアメリカに誘致しようとしていたが,今アメリカはTSMCの素性を良く知り,TSMCは中国共産党とは切っても切れない関係にあると認識して,TSMCを外そうとしている。従って日本が半導体製造キャパシティを拡大する場合は,TSMCに頼るのではなく,日本自身でやらなければならない。

日本半導体産業の再生の道

 まず,日本は,アメリカや中国から無理・難題を突き付けられてもそれを跳ねのけるような力を持たなければならない。もし日本の半導体産業が再び強くなるとアメリカはまた日本を叩いてくるであろう。その時にアメリカの無理,難題を拒否し,日本の産業を守る力を付けなければならない。日本の国としての外交力,交渉力,国力が無ければ,どんな産業も育たない。そのためには防衛力を含めた「抑止力」を持ち,国力としてのGDPを750兆円のレベルに引き上げなければならない。それにはまず「デフレ」から脱却するための政策を実施しなければならない。そうしなければ,日本の政府・産業界はアメリカや中国の無理・難題を拒絶することはできない。

 半導体ビジネスの「王道」は,付加価値の高い「新しい商品,新しい電子機器・システム」の創造・開発することである。

 (1)スマホに次ぐ「新しい電子機器システム商品」を開発する。イノベーションにより新商品の開発を促進する。そのために「経済企画庁」「国立シンクタンク」と「先端科学技術開発センター」を設立する。

 (2)日本の持っている膨大なデータを自分で管理し,そのデータを価値ある商品にする開発活動をする。「情報安全保障」の点からも日本は「自分のサーバー,データ・センター」を持たなければならない。そしてグーグルではなく,日本独自の「情報検索サイト」を創る。

 (3)日本で新しい電子機器システム商品を開発して,大量の半導体が必要になったら「それに合った微細加工ノードの製造設備工場」を造る。そのなかで「少中量生産」のための生産方式及び製品プラットフォームを開発する。

 そのために政府は,リストラなどで半導体産業から散っていった日本の技術者を呼びもどし,教育して,日本の半導体産業に人材を投入しなければならない。

 半導体産業の再生が成功するときは,「半導体産業の拡大」と「日本のGDPの拡大」が「労働者の賃金の上昇」が一体となって進むときである。この経済政策を誤ってはならない。

 これからアメリカ,台湾,中国,EUの半導体製造工場の拡大が進み,2−3年ぐらいすると半導体製造設備の世界的な過剰生産の問題が出てくるだろう。そして半導体製造設備の中古市場が生まれ,この過剰問題を悪化させるであろう。このことを頭に置きながら,「日本の半導体産業の再生計画」を作らなければならない。

(URL:http://www.world-economic-review.jp/impact/article2182.html)

関連記事

三輪晴治

最新のコラム